タイ企業動向
第55回 「新型コロナ感染タイ国内の記録③」
世界的な大流行を引き起こした新型コロナウイルスは、南北アメリカ州や欧州で深刻な被害をもたらす一方、タイやベトナムといった東南アジアや台湾などの東アジアで着実に終息を迎えるなど、感染の拡大や対応に大きな違いが生じている。こうした中、タイ政府は相次ぐ規制緩和を実施。遅くとも7月までには飲食店内での飲酒を解禁するなど、条件付きで大幅な規制緩和を実施する見通しだ。一方、午後11時から午前3時までの夜間外出禁止令については解除。非常事態宣言については、7月以降も継続すべきとの見解もあり、予断を許さない情勢だ。6月10日時点でのタイ新型コロナの現況をお伝えする。
(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
現行での非常事態宣言の期限は6月30日。政府内では、終結させるかで延長するかで連日議論が行われている。延長支持派が懸念するのが、7月1日から公立を含む学校が全国一斉に再開されるのに加え、内外から期待の高まっている国際線旅客機の乗り入れ再開が同日にも始まろうという点だ。万が一にも第2波のクラスターが発生し、対応不可能な事態を想定。慎重になっている。 一方、野党を含めた懐疑派は、同宣言が令状を必要とせずに個人の身柄や財産への強制措置を行えることから、人権侵害にあたるとして早期の解除を求める。評論家の間では、プラユット政権が野党など政敵の追い落としを図るために延長を画策しているとか、政権与党・国民国家の力党内の主導権争いを拡大させないためなどの見方もあるようだが、延長したところでせいぜい1~2カ月。事実上の軍政は7年目に突入しており、大勢に影響はないだろう。 むしろ、延長した場合にもたらされる経済への影響と効果を考えるべきというのが大方の見解だ。世界銀行は最新の世界経済見通しで、新型コロナによるタイ経済への影響は深刻だとして、1月に発表した2020年の国内総生産(GDP)予想成長率2.7%をマイナス5.0%に下方修正した。一度に7.7ポイントも下落したのは、1997年のアジア通貨危機以来。さらなる感染が広がれば、事態は目も当てられなくなる。 一方で、世銀は現行のまま新型コロナが終息した場合、21年のタイ経済の成長率は4.1%まで回復すると分析。多くの民間予想も同様の見方をする。今後のタイ経済の行方を占う上で今が正念場である以上、第2波の発生防止こそが期待される国民世論の大多数意見と読むべきだろう。 政府は2年前に策定した「国家20年戦略」の見直しにも着手。与野党の垣根を超えて、政府の新型コロナ対策関連予算が正しく使われたかを検証する監視委員会の設置も検討されている。やるべく施策や対応は非常事態下でも山ほどある。(つづく)
20年7月1日掲載
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