タイ企業動向
第75回 「コロナ巣ごもりきっかけに 好調に転じるタイのペット関連産業」
厳しかった行動制限規制が解除され、数カ月が経過したタイの新型コロナウイルス・パンデミック(世界的な大流行)。街は従前の姿を取り戻し、年末年始の各種イベントも復活に向けて動きだそうとしている。建設業など今なお一部で弱含みの要素は残っているものの、11月15日付けの日本格付研究所の発表ではタイのバーツ建長期発行体格付がAからAプラスに引き上げられるなど明るい材料も見られるようになった。こうした中、コロナ禍の巣ごもりに端を発した需要から、タイのペット関連市場が活況に沸いている。ペットフードに止まらず、美容サービスやペット用玩具といった分野にまで広がっているのが特徴だ。タイのペット関連産業はどう成長していくのか。市場の今とこれからを概観する。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
バンコク東部バンナーにある国際展示場「BITEC」。ここで昨年10月26日から3日間の日程で開催されたのが、ペット関連産業の展示会「ペットフェア・サウスイースト」だった。B to Bの企業間取引を想定した展示会。大会名に「東南アジア」とあるように、タイを中心に東南アジア一円のペット関連企業が一堂に会する華やかな展示会となった。
業界関係者の話を総合すると、現在のタイ国内のペット関連市場は400億バーツ~500億バーツ(約1500億円~1900億円)。年二桁近い割合で成長を続けているという。輸出も盛んで、貿易統計によれば2021年のペットフードの輸出総額は約654億バーツと、10年前に比べて25%もの急伸ぶりだった。コロナ禍の巣ごもりで世界的な需要が高まっている今年は、さらに伸びて900億バーツに達する可能性もあるという。主な輸出先としてはアメリカ(33%)、日本(13%)、マレーシア(7%)などの名が上がる。
こうしたことから、タイの輸出関係者らで作る組合では、現在世界3位のタイのペットフードの輸出総額が3年後には首位に躍り出る可能性が高いと見る。世界の引き合いに着実に応えていくことでペットフード以外の関連商品についてもさらに輸出が増え、コロナで疲弊した国内産業復興の切り札としても関心が集まっている。
国内の消費市場も盛んだ。業界団体によると、タイ国内のペットフード市場は21年末時点で250億バーツ~300億バーツほど。前年比の伸び率は同様に10%に届こうかという勢いだ。ペットを飼う人が引き続き増加した昨年は、2021年を超える割合で消費が伸びているという。関係者の中には500億バーツは固いとそろばんを弾く人もいる。
活況はペットフードだけに止まらない。ペットに関わる幅広い分野に広がっている。その一つがペット向け美容や医療の業界だ。毛並みを揃えたり、リボンを結んだりして可愛らしく飾り立てるのに加えて、血液や体液を採取するなどして人間並みに健康値を測定。服用するサプリメントを処方するといったサービスまで展開されている。このほか、ペット用ホテルや運動施設、玩具、シャンプー、爪研ぎ器といった製品やサービスも広く市場に供給されている。
これら消費財については、通販サイトなどを使った電子商取引(EC)での注文・購入が主流となっている。自宅まで配達してくれる宅配制度も信頼性が増したことで、以前ならあった内容物が破損されるかもしれないといった心配もなくなった。コロナ禍のオンライン生活にすっかり慣れたことから、多くの消費者がECを活用している。
企業も勝ち馬に乗り遅れまいと、新規に市場に参入したり、新工場を建設したりと余念がない。資金調達を狙って、株式の新規公開に乗り出すケースも目立つようになった。熱い視線が注がれているタイのペット関連市場。こうした動きはしばらく続きそうだ。(つづく)
2023年1月4日掲載
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