タイ版 会計・税務・法務
【第82回】 税務当局から発表された税務監査に関する新プログラムについて
Q:今年に入って、税務当局より税務監査について何らかの救済措置(Tax Amnesty)に関するルールが発表されたと聞いたのですが、どのようなものでしょうか?
A:はい、これは英文では“Royal Act for the Exemption and Support of Tax Operations Under the Revenue Code, 2558 B.E.”と称されるものです。この法律の趣旨を極めて単純化すると、“税務署と問題を抱えていない企業については、過去の税務監査を免除する”というプログラムです。以下では発表された内容について、少し詳しく見ていきましょう。
(1) 対象
2015/12/31以前の決算期における売上が5億バーツ以下の法人が対象となっています。5億バーツというと日本円で20億円弱ですので、どちらかというと中小企業向けの政策であるといえます。
(2) 免除措置の内容
2015/12/31以前に開始する決算期における税務調査及びそれに付随する更生決定及び罰則等を免除されます。通常、税務署は申告書提出から2年間遡って(脱税の疑いがある場合は5年間)税務調査を行うことができるとされていますが、今回の免除措置申請により2015/12/31以前開始年度について、税務調査されることがなくなります。税額免除の制度ではありませんので、税務的に問題のない企業にとっては、税額が減るわけではありませんが、一方で税務調査が行われた場合に発生する、追徴課税のリスク、および時間的ロスを回避することができます。
(3) プログラムの利用ができない企業
一方で、次に掲げる場合に当てはまる場合には、当該プログラムは利用できません。
A 2015/12/31以前に税務調査が入っている場合、又は税務訴訟が継続している場合(但し関連する該当年度に限定されます)
B 虚偽のタックスインボイスの発行、利用がある場合
C 虚偽申告等により脱税を行った場合
D 還付申請を行う場合は、いままで同様に税務当局より還付に関連する部分での税務調査や更生決定等がなされます。
(4) 申請の方法
・税務当局へ2016/3/15までに適用申請書を提出すること
・申請書において、今後適切な申告と税務書類の作成を宣誓し、遵守すること。違反した場合は、(2)の免除措置が取り消されます。
このプログラムは、現在税務調査を受けておらず、また、還付申請等も行っていない企業にとっては、一定程度のメリットがあると思われます。また、税務署サイドにおいても、そのような企業を税務調査対象から外すことができるため、税務業務の効率化という点にも資する部分があるとも考えられます。
一方で、日系企業等で問題となっている税務還付申請の際の税務調査については、当該プログラムが発表されて以降、むしろ調査が厳しくなっている傾向もあり、注意が必要です。つまり、還付請求を行っている場合には、今回のプログラムは利用できないばかりか、当該年度に関しての税務調査権を利用して、厳しい査定を行い、(うがった見方をすれば)できるだけ還付金額を減額させるというものです。
還付に関連する税務調査は、これまでも問題が多かった(進展が遅い、難癖をつけられる等)ですが、今回のプログラムによって状況が更なる悪化を懸念するところです。
今後取り上げてほしいというようなテーマがございましたら、参考にさせて頂きたく存じますので、下記のEmail宛にご連絡頂戴できますと幸いです。
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著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
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