タイ版 会計・税務・法務
【第104回】 税法改正と移転価格税制/BEPSについて(その1)
Q:昨年、移転価格税制にかかわるタイの税法の改正案が発表されたと聞きましたが、どのようなものでしょうか?
A:タイにおいても、国際的な租税回避策への対応処置が徐々に進んできています。まず、移転価格税制とそれをとりまく昨今の全世界的な状況について、ご説明をさせていただきたいと思います。
いわゆる移転価格税制ですが、この税制は米国が1968年に税法を改正して導入したことが始まりといわれており、すでに50年近い歴史があります。もともと米国がこの税制を取り入れたのは“財政赤字を補填するための税収の増加”と“多国籍企業のグローバル取引の進展と節税の進化”という二つの要因があったと言われています。ただ、根源的には“税の徴収”という極めて“各国の国家主権に属する制度”と、“グローバル化と経済合理性の追求”という多国籍企業の行動原理、つまり“グローバルな節税行為”のぶつかり合いから、国が税金をいかに徴収するかという方策の中で生み出されたコンセプトです。その萌芽がすでに50年前にアメリカに生まれていたということでしょう。
企業間のグローバルな活動=国境をまたいだ活動については、伝統的には“二重課税の排除=租税条約の締結”という形で、ルールを作って企業のグローバル化取引を円滑に進める基盤作りが行われるとともに、PE(恒久的施設)という概念などによって課税権の調整を行いました。ただ、租税条約によって課税権の調整をする場合において、対象となるのは法的に独立した個別の企業(もしくは個人)であるため、多国籍企業という法的には各国で独立しつつも、国境を跨った形で意思決定を行う企業集団への課税については、一種租税条約でカバーできない分野であるともいえます。
つまるところ、多国籍企業への課税の問題は、独立した個別企業への各国への課税権と、企業集団としてみた場合、どの国が課税権を持つ“べき”であるかのせめぎあいの中で、一つの擬制として“本来あるべき所得がどこかの国から別の国に移転されているはずだ”というロジックで独立した企業体への各国の課税権と税徴収の調整を行なっているとも考えられるでしょう。
一つの例としては、A国の株主で構成されているA国の企業が、B国に子会社を有していて、B国を主な市場としてB国で主な売り上げを上げている場合(*A国企業からB国企業に物品やサービスを売っていると仮定します)に、B国でのA国からの仕入れ価格を意図的に高くしてB国企業の利益を低く、A国企業の利益を大きくすることは、A国の株主にとって有利となります。また、B国よりA国の税金が安い場合も、グループにとってメリットがあり、こうした利益操作のメリットあると考えられます(利益操作は、グループでの税金社外流出の極小化という観点で語られることは多いですが、この例のように株主やステークホルダーのために行われるケースもままあります)。
つまるところ、この例でいえば、A国の会社はB国での事業で大きな利益を上げているにもかかわらず、B国の税金はほとんど払わずに、本社のあるA国で納税をしていることになって、B国の徴税の観点からは非常におもしろくない事態が発生してしまいます。(次回に続く)
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2018年1月