タイ版 会計・税務・法務

【第106回】 税法改正と移転価格税制/BEPSについて(その3)

Q:昨年、移転価格税制にかかわるタイの税法の改正案が発表されたと聞きましたが、どのようなものでしょうか?

A:前号では、1月初めに閣議決定されたタイの移転価格税制改正についてお伝えさせていただきました。今回は初回(その1)に続く形で、移転価格税制、さらには、それをさらに発展したものとしてのBEPS対策について、述べさせていただきます。

その1では、グループ間取引において利益の操作が行われた場合、それに伴って税収がある国から他方の国に移転してしまうという問題について述べました。これは、①現在の税体系では、利益に課税するという方式が国際的に広く採用されていること(いわゆる法人所得税課税方式です。もっとも、これに対して外形標準課税方式等、他の方法もありますが、主たる法人への課税は所得税課税方式がとられています)、②課税権の強制力は他国にある法人に対しては基本的には働かないことから、利益が他国法人に調整されて移転されてしまうと、移転された国の税務当局は対策がなかなか取れないということがあります。これを解決する(税務当局の側からですが)ために導入されたのが、移転価格税制であり、その根本の考え方は“不当に調整された利益移転については、税務当局が取引価格を修正して課税する権限を有する”というものです(タイの現行の税法でもこの一般的な考え方はすでに取り入れられています)。つまり、グループ間での取引価格が100であるにもかかわらず、税務上の適正な取引価格は120である(もしくは80である)と税務署が認定できるという権限をもつものです。
さて、この移転価格税制にかかわる難しさについては、①不当に調整された利益についてどのように判定するのか;つまり“不当”とはどのような状態を指していかに適正な利益水準を決定するのか、②証明責任は誰が負うのか;つまり、税務当局が“不当”であると先に納税者に指摘するのか、納税者が価格は“適正である”と証明するのか、③価格調整が行われた結果の二重課税の回避;つまり、グループ間取引価格を一方の国の税務当局が調整した場合、相手側の国の利益が減ることへの対処、といったような点があげられます。
①については、利益水準の決定についてOECDで定められた方式があり、各国もほぼそれに準拠していることから、適正な利益のコンセプト(方式)という点ではほぼ共通の認識があるものの、1)個別取引および個別企業への適用の段階における方式の適用の問題、2)比較可能な対象となる適当な企業や取引を見つけることが難しく、方式は決定できても“水準”そのものが決定できない。という問題点が多く指摘されています。実際の移転価格税制対策の現場においても、多様な企業・取引があるなか、かつ、データや取引形態も刻々と変わってきている中で、ある意味“過去のデータ”に準拠した利益水準の分析自体が意味を持つのかということもあります。
②は、まさに移転価格税制の実際の手続きの一番対処が必要な部分で、世界の趨勢として「納税者が価格は“適正である”と証明する」という方向で動いてきており、前回お伝えしたタイでの導入においても、この部分の厳正化への納税者の対応が必要となる点が、もっとも重要なのではと考えます。

(次号へ続く)

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

 

2018年3月

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