タイ版 会計・税務・法務
【第109回】 電子商取引とVAT法改正案(その2)/ BEPSとの関連について
Q:最近電子商取引についてタイにおいて付加価値税の改正が検討されていると聞きましたが、どのようなものでしょうか?また、これは以前に行われた、日本の消費税の改定とも関連するようなものなのでしょうか?
A:前回の続きで、電子商取引に関しての付加価値税の取り扱いは、海外事業者と国内事業者の競争環境にも影響を与えてしまう点について解説させていただきました。日本ではこうした点を踏まえて2015年に消費税の改定が行われ、電子書籍、音楽、広告の配信などインターネット等を介して行う役務の提供については、別途「電気通信利用役務の提供」と区分されて、その役務の提供が国内取引にあたるかどうかの判定基準が、「役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地」から「役務の提供を受ける者の住所等」で判定することに変更されました。(この規定ぶりは、消費税は国内で提供されたものに対して課税されるが、その国内で提供されたかどうかの判定基準を提供を受けるものの住所とすることであり、したがって消費税の課税を役務の利用(費消)地に変更したのではないーというふうにも理解されます)この改定により、日本においては事業者の内外差が修正されました。
さて、今回のタイの改定についてですが、これは以前よりタイにおいて付加価値税は“タイに輸入されたサービス”に対する課税の概念があるため、日本のように課税対象かどうかの議論は発生していないのですが、一方で、当該付加価値税の納付に関して、ある意味十分とは言えませんでした。
2015年の日本の改正においては、いわゆる「事業者向けの“リバースチャージ方式(*)”」と「事業者以外の国外事業者申告納税制度」が新しく採用されることになりましたが、 タイではこれまでもVAT登録事業者におけるリバースチャージ方式が採用されていたもの、このリバースチャージ方式だけでは、付加価値税納付義務のない消費者がサービスを輸入した場合にうまく対応できません。そのため今回の改正で行われたのは、日本のように一般消費者に対する「国外事業者申告納税義務」と同様に、この義務を明確化したものであるといえましょう。
*リバースチャージ方式:通常、付加価値税・消費税は、物品・サービスの提供者(代金請求者)が徴収を行って納付を行ないますが、リバースチャージ方式では、物品・サービスの受領者が納付を行う形になります。タイでは、税法83条6項において、付加価値税の代金支払い者による納付(いわゆるリバースチャージ方式)が定められています。
つまり、タイ税法では、これまで「サービスの輸入」における非居住者の付加価値税登録義務は基本的には不必要とされておりましたが、今回の改正では「電子商取引により直接付加価値税非登録者に対してサービスを提供する場合」において、付加価値税登録を行って当該非居住事業者が付加価値税を納付するという形への改正を図るものです。なお、当該改正案の実施については、今後の国会等の認可を経て施行されることになりますが、世界的な潮流から考えて、近々にも導入されることになるかと思われます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2018年6月