タイ企業動向
第26回 タイのコンビニエンスストア
タイ全土に総数15000店以上はあるとされるコンビニエンスストア。日本と同様に今や生活インフラの一つとして定着し、食料品や日用品の購入はもとより、携帯電話の利用料、航空チケット代金の支払いなども行うことができる。しかも、その恩恵を受けられるのがバンコクや観光地といった都市部に限られず、もはや出店場所は全国津々浦々。ミャンマーやラオス、カンボジアといった人里乏しい国境近くの幹線道路沿いでも新たな出店が続いている。それほどタイでも生活に密着するようになったコンビニが今回のテーマ。意外と知られていない事実もあって面白い。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
タイ・コンビニ業界のトップを行くガリバー(巨人)と言えば、財閥最大手CPグループが率いる「セブン・イレブン」であることは誰もが知っている。1989年6月、タイ1号店がバンコクにお目見え。その後、順調に出店を繰り返し、20年目に5000店。さらに8年後となる昨年8月には、事業計画を前倒しして前人未踏の1万店を達成。本家の日本市場に続く、世界第2例目の大台突破を実現した。中期計画では、今後も年間700店の新規出店を維持し、2021年には1万3000店舗の体制にする予定でいる。
では、セブンに続く現在の第2位は?そして、ほどなく2位争いに躍り出そうなコンビニは?こう尋ねられて、直ちに答えられる人は相当な〝通〟であると言えるだろう。24時間営業スタイルのコンビニは日本が発祥。だからであろうか。尋ねられれば、日本の大手コンビニチェーンが真っ先に浮かんでしまうのが通常の感覚だ。バンコクの日本人が暮らすエリアにも、日本で見慣れたコンビニの看板があちこちに点在し、何の違和感もなく買い物をしている。よもや、上位にローカル資本がランクインしているとは思いもしない。
現在、コンビニ業界で第2位に位置するのは、イギリス系のディスカウントストア「テスコロータス」が展開する「テスコロータス・エクスプレス」(約1500店舗)。そして、第3位がタイの財閥セントラル・グループと組んだ日本の「ファミリーマート」(1134店舗)だ。ところが、21年までに3000店舗体制を目標に掲げるファミマ。他店舗展開に向けた道のりは思いのほか険しく、間もなくタイ資本の第4位、第5位グループに追いつかれるのは必至の情勢となっている。
タイ・イサーン地方(東北部)の主要県コーンケーン。隣国ラオスに向けた国道2号線が中心部を南北に貫くこの中核県の人口は約180万人。乗用車やバス、大型トラックがひっきりなしに通過する。沿線には多くのガソリンスタンドや小売店が建ち並び、激しい価格競争を続けている。こうした中に、タイの国営石油会社PTTの店舗もある。
最近、この周辺域にあるPTTの給油所で、敷地内にあるセブン・イレブンの看板が掛け替えられるケースが相次いでいる。付け替えられた看板には、PTTが自ら運営するコンビニ・ブランド「Jiffy(ジフィー)」の文字。これまでセブン・イレブンとの間でフランチャイズ契約を行ってきたのを改め、自前のブランドに切り替えようとしているのだ。
PTTの給油所は全国約1400カ所。このうちの約1100カ所でセブン・イレブンが出店をしている。同社ではこれを、契約の失効する2023年までに順次自社ブランドに切り替えていく計画でいる。現在、コンビニJiffyは全国に149店しかない。しかし、切り替えが実現すれば、一気に1500店舗台、セブンに続く第2位が見えてくる。
同社は事業の多角化を進めている。すでに、フィリピンやカンボジア、ラオスといった近隣諸国で給油所事業を展開。さらに、タイを含む東南アジア一円でコーヒーショップ「カフェ・アマゾン」やJiffyを積極出店している。カフェ・アマゾンは日本にも進出しており、日本人にもなじみとなりつつある。新たな事業戦略の柱に据えているのが、コーヒーショップ事業とコンビニ事業なのである。
大手財閥TCCグループ参加の総合商社バーリ・ユッカーが買収したハイパーマーケット「ビッグCスーパーセンター」もコンビニ事業に注力している。現在、「ミニビッグC」は国内に約600店舗にとどまるが、2020~21年をめどに1700店舗体制、セブンに次ぐ単独第2位を狙うとする。そのための新規予算100億バーツ前後も充てる計画だ。もともとが、大型スーパーマーケットであるビッグC。共同仕入れによってコストを下げ、価格競争でも対抗するとしている。
ミニビッグCも、カンボジアやラオスへの進出を計画するほか、給油所での出店も進める。現在はバンチャーク石油が中心であるところ、シェル石油やカルテックス石油のスタンドにも入居を目指す。オフィスビルや病院、人が集まる施設への積極展開も計画している。
こうした動きに対抗できるとすれば、やはり首位をひた走るセブンをおいてほかにないというのが業界での共通した見方だ。同社は新たにコンドミニアムなどの住宅施設やインフラ関連施設での出店を進め、Jiffyとの契約打ち切りに伴う損失を最小限度に抑えていく考えでいる。また、バンコク周辺域で「中食」を求める需要が拡大していることにも注目。食品工場の増設を進めるほか、配送方法の見直しも進めていく。日本で始まったコンビニ事業。タイでは、地元資本を巻き込んだ壮絶な争いが展開されている。(つづく。店舗数は調査時点)