タイ企業動向
第30回 タイの均一ショップ
均一の低価格で種類も豊富。ついつい買いすぎてしまうが、財布はそれほど痛くないというのが通称「100円ショップ(100均)」。日本では景気後退の局面から新商法として定着したところ、タイでは増えつつある中間所得層の受け皿として2000年代後半ころより定着し、爆発的なヒットを続けている。日本からの進出組のほか、中国系、タイ系と事業形態や内容もさまざま。価格帯も20バーツ均一から60バーツ、80バーツ均一、あるいはそれ以上のものも。まだまだ伸び代が大きいとされるタイの均一ショップが今回のテーマ。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
バンコク東郊ラムカムヘンや北郊ラープラオ・ラムルッカー、西郊ピンクラオなど日本人居住者が少ないタイ・ローカルエリアの商業地区に進出を続けている業種店舗がある。日本で言うところのいわゆる「均一ショップ」。大半が「20バーツ均一」を売りにし、生活雑貨や家電小物、事務用品など多彩な商品を販売する。カラフルな店の造り、豊富な品揃え。毎日がお祭りのような雰囲気に、20バーツ札を片手に買い物を楽しむタイ人客は後を絶たない。タイで今、最もヒットしている店舗の一つである。
ローカル最大手の「AEKO(เอโกะ)」はバンコクだけでも200店舗以上。地方都市にも進出し、全国に少なくとも300~400店舗はあるものと推定されている。ほとんどがフランチャイズ(FC)展開で、進出や撤退が多く実態はよく分からない。看板に日本語で「アエコ・ショップ」と表記されているものの、客層はほぼ100%タイ人だ。
似たようなローカル均一ショップに、「OK20」「SAVE SHOP20」「NOPRAT20」などがある。店の形態や品揃えは大きくは変わらない。20バーツ均一も同じ。陳列されている商品の中には他店で取り扱っているものも。中国系や地場タイ系がほとんどで、元手のあまりかからないFC形態を取っていることから大小資本入り乱れての争奪戦が繰り広げられている。FC加盟料も数万バーツからと低額に設定されているのが特徴だ。
ところが、強度が弱かったり、色が落ちたり、すぐに壊れたりと、品質面で必ずしも十分となっていないのがこうした店舗で販売されている品々だ。使い捨てで満足する客層もなお多くいるが、それでも所得が増えつつある中間層を中心に、良い品を求める動きも広がっている。こうした客たちが流れ込む先が、日本から来た本家本元の均一ショップなのである。
100円ショップ大手のダイソー(大創産業)は2001年から海外展開を進めている。タイは重要拠点の一つで、昨年10月時点で約130店舗を数える。今後も全土に拡大する方針でいる。「飽きられない店舗づくり」をモットーに個性的な店舗展開をする同店だが、各店で共通するのが「高品質」「価格以上の価値」「豊富な品揃え」。中でも品質と高付加価値では群を抜いており、前述の地場20バーツ均一ショップは太刀打ちができない。圧倒的な地位を誇っている。
日本で3位のキャンドゥも15年12月からタイ事業に着手。家具製造販売のタイ資本イーストコースト・ファニテックがFC展開する。豊富な資金力やネットワークを武器に、20年までの100店舗出店が目標。ダイソーと同じ、質の高い60バーツ均一で同社を猛追する計画だ。
大阪を中心に全国で100円ショップなどを展開とするワッツもタイ古参組の一社。09年に海外1号店となるKOMONOYAをタイに出店。昨年末現在の33店舗はダイソーに次ぐ規模だ。もともとが100円ショップ専業とあって、独自の仕入れルートを持つ。機能性やデザイン性で優れた商品を投入し、地方都市での顧客獲得も狙う。
こうした動きに対し、13年創業で中国を重要な拠点とする名創優品(メイソウ)は、従来の均一ショップとは異なる戦略を描く。「高品質」と「低価格」は掲げるが、必ずしも重なり合う条件とはしない。高品質の商品にはそれに見合った価格を、低価格なものについては最低限の品質は維持しながらも69バーツからと、価格帯に69~1299バーツと開きを持たせているのが特徴だ。
衣料品や化粧品といった若年層をターゲットとした商品展開も特色の一つ。変わったところでは無線使用のヘッドホンやスピーカーまでも。流行に合わせた商品の入れ替えも迅速に行って、顧客のニーズに合わせた商品陳列を心がける。20年までにタイ100店舗、ASEAN1000店舗、世界2000店舗を目標とする。
バブル経済の崩壊をきっかけに日本で生まれた「100円均一ショップ」。新しい小売業の形態は、時を経て海を超えてタイなどの新興経済国で新たな段階を迎えている。背景にあるのは、確かな経済成長と変化の激しい商品トレンド。貪欲なまでにモノを求める消費意欲がその最大の原動力だ。(つづく)