泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第30回 『吉田祐作氏に聞く タイの教員養成』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、工学部でJICAシニア・ボランティアとして、主に教員養成と日系企業との産学連携に携わる吉田祐作氏に、タイと日本の教員の特徴、タイの教員養成について語ってもらいます。
まず自己紹介をお願いします。
吉田(Y):JICAのシニア・ボランティアとして、タイに赴任したのは今回で2回目です。最初は2006年で、ラオスに近いタイ東北部のウドンタニ県のラジャパット大学に約3年間いました。そこでは機械工学でカリキュラムの改善や教員の育成に従事しました。その前の日本では、財団法人日本自動車研究所(JARI)に36年間、定年まで勤務しました。妻と娘、二人の息子は日本にいます。JARIでは、CNG(天然ガス)やバイオエタノール/メタノールなどを燃料とする代替エネルギー機関や排気エネルギー利用技術の開発研究などを行ってきました。
なぜタイでJICAの仕事を選んだのですか?
Y:前職では、上述の開発の関係で、欧米の会社との関わりが多かったのですが、JICAから委託された途上国の政府機関・大学等を対象とした自動車技術の研修を担当し、さらにTAI(タイ自動車研究所)立ち上げ時にもJARIが専門家や技術者派遣に協力したことで、タイの状況とイメージをある程度理解していました。そして定年後は東南アジアで、今までに得た技術ノウハウを活かせるのではないかと考えてJICAに応募しました。第1回目のカリキュラム改善の仕事をしている時にTNIを訪問し、情報交換をしていたので、今回のTNIの希望・期待を事前に理解しました。また日本では、開発がらみで企業の支援を得て仕事をしてきたので、その経験がTNIにおいて日系企業との産学連携に役立てると思ったのが応募の理由です。また今回はタイの仏教文化や日本の国民性と似ている点の多いタイ人に親しみを感じて、教員・学生に対応しています。
TNIでは、どんな仕事をされていますか?
Y:前のラジャパット大学と共通することは、自ら学生に教えることではなく、技術移転を目的に能力ある教員を養成することです。例えば、1回目は、タイの教員がソーラーカー、バイオディーゼル、水力発電などの研究を行い、タイの機械学会や日本の学界で発表し、外部の人にアピールし、連携できるように支援しました。幸い何人かの先生は、その後日本で学位を取り、中核教員として指導できるようになっています。
私のタイ人教員への助言事例を紹介します。1つは、メモを取る習慣で、小さなノートを常に携行するよう指導しています。その結果、ラジャパット大では教員が学生に自費でノートを買い与えてノートを取るようになっています。タイでは、テキストは持っているのですが、あまりメモを取ることがなくテキストの端っこに書くだけで済ませる場合が多いようです。第2は学生のためを思うという事で、親が子供を面倒見るように、成長努力を促すことです。これも先生が教えっぱなしの状況から、学生に将来へのアドバイスをするまでになりました。
タイと日本の教員のやり方で違うことはありますか?
Y:一般に教員(教授職)とテクニシャン(助手)の差が歴然としていて、教員は理論優先で、手を汚すことを嫌うようです。学生フォーミュラカー大会プロジェクトなどでも、実際にはこのテクニシャンの教員が中心となり学生に協力することになります。もちろん他大学に比べ、プロジェクトに参加する学生の数や、いろいろな役割分担からTNIの方がはるかに優れているのですが、理論・講義の先生方と、ものづくりの主体となる実技教員との垣根を縮める努力が必要と感じます。日本では研究室制度があり、チームワークを重んじ、教授、准教授、講師、助教、学生が合宿・飲み会などで一体となる機会を設け、現場の意見を積極的に取り入れますが、日本のものづくりを教えるTNIでも、必ずしもうまくいっているとは言えず、さらに日本に倣う必要があります。
JICAのシニア・ボランティアとして、後進に伝えたいことはありますか?
Y:応募資格は、TNIなど、相手の要請項目に合致する資格要件を持っていることが要求されます。そして技術系では、語学力が要件の1つになっているので、日頃の学習が重要です。JICAの協力として、任地に溶け込んで、相互理解のもとに、実状に即して一緒に活動し、赴任先のためになるような活動をすることを心掛けています。そのために、感謝・謙遜・忍耐が肝要です。感謝とは、周りの関係者に感謝すること、謙遜とは、相手と同じ目線で見たり、同じ釜の飯を食うことです。そして忍耐とは、時には待つことも重要ということです。
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