泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第31回『吉田祐作氏に聞く タイ人学生指導』 

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、工学部でJICAシニア・ボランティアとして、主に教員養成と日系企業との産学連携に携わる吉田祐作氏に、ウドンタニとバンコクの経験に基づき、タイの学生とTNI学生の特徴、タイ工学教育の課題、学生指導の秘訣について語ってもらいます。

タイ一般学生とTNI学生の違いはありますか?学生指導のコツは何ですか?

吉田(Y:ウドンタニの学生は、地方の学生ということもあり、ややのんびりとしていて、日系会社ともあまり縁がありませんでした。TNI生は、都会の学生で日本文化にあこがれてきた学生が多いという印象です。タイの学生一般は、素直に先生の言うことを良く聞きますが、疑問もあまりなく、自分からこうしたいという問題意識は少ない感じです。学生フォーミュラ大会などのプロジェクトも参加規模が小さくなると、組織的な取り組みが難しくなります。

学生がいかに興味をもって学習を持続できるかは重要課題で、モチベーションの与え方と持続のさせ方が大事で、工夫する必要があります。TNIの強みの1つは、日系企業や日本の大学との各種のつながりがあり、多様性と連携の機会に恵まれていることです。これは、裏返せば有為な人材になる期待の大きさです。TNI生は、入学当初は漠然としたものであるとしても、日系企業へ就職する際に有利なものを色々獲得できます。さらに、日本に行ってみたい、日本に行って働きたい、日本の大学で勉強したいという気持ちが他大学の学生より強いようです。教員側としては、これらを大きな動機づけにして、それが持続するように指導することが重要です。

TNI生の良い点は分かりましたが、日本でも難しい独創性の指導などはいかがですか?

Y:TNI生は日本の企業・大学からの訪問者と接触する機会や、日系企業でインターンシップを受ける機会も多く、物怖じせずにコミュニケーションを図ろうとする積極性があります。日本語会話能力の向上を図ろうとする姿勢も評価できます。工学における独創性のある発想は、成功・失敗体験を経て体得したノウハウの延長上にあり、一朝一夕にはいかないので、思考のプロセスを学生と一緒に経験しながら指導することが大事です。

タイ学生に日本のものづくりをどう指導されていますか?

Y自ら経験した以上のことはなかなか発想に結びつかないので、なるべくものづくり経験を教育の中に取り入れていく必要があります(※)。理論と体験を結びつけないと、知識としてなかなか根付かないし活用できません。その知識を活用して応用することが工学としては大事なので、役立つものでないと意味がありません。

PDCAのプロセスでタイの工学教育を考えた場合、一番不足しているのが作ったものの評価(計測の部分)です。よく言われるように、「計測することは知識を得ること」(原語はメッセン・イスト・ビッセンというドイツ語)です。自分で作ったものがどういうものなのか、いいものなのか、いまいちなのかを知ることが大事です。例えばTNIでは立派な計測機器があり実習用として使っています。また、実際の射出成形では、金型は手元と奥の温度が違うので、プロセスを把握して実際の現象を理解、金型各部温度を管理する必要があります。金型のブラックボックスの部分を実験的に突き詰めていくことも重要です。教室で流動解析シミュレーションを取り入れ、理論と実験を突き合わせることによって改善プロセスを理解していけるようにしたいと思っています。工場実習やインターンシップなどで実践教育に結びつけていきたいと考えています。

大学の2年の専門課程で、単なる即戦力ではなく、持続して改善につながる工学教育をしていくためには、教員自身の学習モチベーションを持続させる必要があります。今、TNIでは研究室を拡充中ですが、その充実は有力な手段とも言えます。また産業界のノウハウを実践教育に取り入れて、産学連携の実をあげることが、今後のものづくり教育の充実につながると思っています。

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