泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第48回『TNIの日本語教育2』

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。本稿では前号に続き、ガン講師と當山講師によるJセミナーでご紹介したTNIの日本語教育を取り上げます。TNI日本語・経営学科の日本語学習、TNI生のコミュニケーション力や日系企業の方へ考慮頂きたい点などをご案内します。

3.経営学部「日本語・経営学」の日本語コース 

  • 経営学と日本語の授業時間比率は68:32になる。
  • 日本語履修 計606時間
    (⋆参考:日本の高校英語は628時間)
  • 基礎日本語 336時間:1-2年生対象、週6時間×7週×8科目
  • 学習者は原則として日本語の文字や音声を既習(未習者は4、5月のサマー学期に仮名(カナ)を勉強)
  • 学習目的:少し複雑な文章を読める、さまざまな場面の会話を聞き取れる、自分で対応できる
  • 教科書:『新文化初級日本語Ⅰ・Ⅱ』(右写真)
  • ビジネス日本語 180時間:3年生対象、週3時間×15週×4科目
  • 目的:ビジネス日本語(簡単な社内・社外の会話、例えば、挨拶、招待、電話、依頼などのビジネス場面を学習)
  • 教科書:『ビジネスのための日本語』(右写真)
  • 日本事情 90時間:4年生対象(日本語とタイ語での講義)
  • 目的: 日本の歴史、社会、経済について学習し、将来、日本人と効果的に仕事ができる

プロジェクト

  • プロジェクトは、ものづくり理念に基づいて、学生は習った日本語を使い、スクリプトを書く
  • ペアやチーム・ワークを習うチャンス
  • スクリプトが完成した後、クラスで発表し、質疑応答。自分が考えたことを他人に伝える

評価方法

  • ペーパーテスト45%
  • 口頭テスト20%(Ⅰ講師から学生にインタビュー:内容は自分の性格・将来就きたい職業。ビジネス日本語の場合、仕事の面接の練習。IIロールプレイ(2、3年生):学生同士のペアで会話をする)
  • 出席・宿題・プロジェクト・チャットルーム35%

日本語副専攻

  • 2015年から日本語副専攻のコースも開講している。
  • 通常に加え次の5科目(225時間)多く、全部で831時間になる。
    ➡授業時間を増やしたことで、日本語能力の向上を期待。

*日本語能力試験対策 (次の科目で対応):JPN-414 Japanese for Proficiency Test、JPN-419 Japanese Reading

*仕事で使う日本語:(次の科目で対応):JPN-411 Japanese for Translation、JPN-413 Japanese through Multimedia、

JPN-424 Japanese Presentation

 

4.学生のコミュニケーション力

TNI Ability Testの結果(=3年次8641人対象の結果)。50%以上の得点を、合格ラインとしている。全学部のN5レベルの21.5%はN4レベル相当にあと一歩。
(*3年次のTNIの語学能力試験は、上記のほか、IB(国際経営学)専攻者等、合計840人が対象であった)

*なお2016年1月の調査では、全学生のうち、N2合格者は44人、N1合格者は9人いる。

TNI学生の日本語力 「伝える力」の長短所

  • 「話す」「聞く」力をつけるアプローチの長所:リスニングが得意、何とかコミュニケーションをとろうとする、日本人と話すことを怖がらない。
  • 短所:語彙が少ない、片言の日本語がくせになってしまうこともある。

必修科目履修後の日本語学習は、次の学習機会、経験により能力向上が図られる。また下図の成長を期待。
①大学:選択科目の履修、インターンシップでの日本語使用経験
②職場:就職後、会社での日本語使用経験、出張、短期研修などの訪日経験、長期研修、日本への派遣などの経験

組織力・専門技術力:他大学と比較し、TNI生は以下の特徴がある。

  • 専門知識を持ち、さらに基礎的な日本語もある
  • 日本の企業文化(習慣や考え方)などをある程度知っている:ホウレンソウ、5S改善など…
  • がんばる、残業への抵抗が少ない傾向
  • 日本人と接することに慣れている

日本人の方へ

  • タイ人学習者が感じる困難な点:助詞「てにをは」、動詞の活用(過去形、受身)、文字(かな、漢字)、専門用語や略語、多様な話し言葉(男言葉、若者言葉)、方言
  • わかりやすい日本語とは?「現場」での話 ⇔ 抽象的な話、話すテーマが明確、具体的な例がある、「やさしい日本語=優しい日本語・易しい日本語」→ です・ます体、 短い文
  • 「やさしい日本語」とは?:多言語社会におけるコミュニケーションで、外国人が日本語を学ぶ・使うを理解する。日本人が外国語を学ぶ・使うを理解する。→日本人が「やさしい日本語」を使う
  • 「やさしい日本語」 具体例=公文書を「やさしい日本語」で書き換えた例:

「日本の医療機関は、入院や検査の設備が整った大きな病院と、普段から身近なおつきあいをする個人医院や診療所に分かれます」

➡日本の病院には、入院や検査ができる大きい病院と、いつでも行くことができる小さい病院があります。

筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

 

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