タカハシ社長の南国奮闘録
第87話 グローバル技能伝承
空洞化という言葉を最近耳にしなくなったのは、企業のグローバル化により、もはや当たり前となったからだ。日本経済にとっては不利な言葉だが、価格競争力を備え、関税を避けるためには企業の海外シフトはやむを得ない。むしろ日本政府も積極的に海外生産を後押ししている。
以前は日本国内で生産しなければ品質管理できなかったものも、公差を少し緩めることで、海外生産に切り替えることが可能になった。近年はIT化が進み、AIやIoT センサーを駆使した製造ラインにより、工場のスタイルも変わってきている。
こうしてスマートファクトリー化が進んでいくことで、日本はますます生産拠点に選ばれなくなる。若手の減少、労働者の製造業離れ、さらには今年から始まる働き方改革による労働時間の制限もそれに拍車をかける。
日本の屋台骨である自動車産業も同様、高齢化社会による運転人口減少に加え、カーシェアリングで車を所有することなく利用できる社会になることで、日本での車の絶対需要はどんどん減っていくだろう。
このことだけを考えても海外シフトは自然の流れであるし、中小企業にも空洞化の波が押し寄せている。中小企業の誇りであった技術力や品質管理、納期管理など難易度の高い製品も、IT化により現地供給が可能になっていく。
中小零細企業にはまだまだ先だと言われてきたインダストリアル4・0の国外生産を可能にする時代がすぐそこまで来ているのだ。間違いなく今後、労働力があり大きなマーケットを持つアジア、北・中・南米諸国、アフリカ大陸に生産拠点が設置されていくだろう。
この時代の流れを受けて、タイのテクニアでもITを駆使した技能伝承を行い、日本人がいなくても技術面をカバーできるようにしていきたい。IT化が定着すれば、難易度の高い多品種少量の製品を日本のクオリティのまま生産していける仕組みが可能になる。
世界各国のマーケットを相手にするのであれば、その国のプラスにならなければ受け入れてもらえない。だからこそ現地で生産し、現地で販売する。為替の面からもそれが望ましい。
テクニアは現在、インドネシアのバンドゥンにある大学19校と提携しており、この春先から現地での基礎技能教育を始める。インドネシアから日本に渡って活躍する現場の精鋭を育てるのだ。最終的には彼らもインドネシアの製造業を支える職人となるに違いない。
日本のテクニアでも昨年、南米コロンビアの国立大学を卒業した優秀なIT人材を採用し、グローバル化とインダストリアル4・0に対応している。目先の変化はまだ見受けられないかもしれないが、5年先にはまるで違うテクニアになっているだろう。
これからの技能伝承は、世界のものづくりを相手に行わなければならない。技能を要し、日本人にしか出来ないと言われていたほとんどのものを、クオリティを下げずにタイで生産できるようにする。それが今の私の目標だ。
移り行く時代の波に乗り遅れないよう頑張っていきたい。