タイ版 会計・税務・法務

第121回 タイにおける「工場法の改正」

Q:工場法の改正が予定されていると聞きましたが、内容はどのようなものでしょうか?

A: タイの現行の工場法は1992年に改正が行われたものですが、選挙前の2月に国民立法評議会で改正案が可決され、今後、国王の認可と公告が行われたのち、施行される予定となっております。以下では、主な変更点について説明をさせていただきます。

1)対象となる工場の定義の変更:これまでの工場法においては対象となる「工場」は、5馬力以上の動力を有する機械が設置されているか、もしくは7名以上の労働者と定義されていましたが、改正案ではそれぞれ50馬力以上、50人以上とされ、それを下回る規模の工場・作業場は対象外となります。

1992年工場法においては、規制対象範囲を比較的広くとると同時に、その中で3つにカテゴリー分けを行っており、50馬力超/50人超は第3カテゴリーとして、事前申請(工場建設前)の対象とされています。改正案では実質的に申請の対象となる、この第3カテゴリーのみを工場法の対象に絞ったと言えるのではと考えます。これは一種の規制緩和処置ではあるのですが、一方で従来管理下にあった第2カテゴリー(20馬力超50馬力以下、20人超50人以下:操業前の報告義務あり)に対する規制がなくなることで、工場立地に関する歯止めがゆるくなることを懸念する声も出ています。

2)工場設立の定義の変更:工場設立(Factory set-up)の定義から、工場建設が除かれることになります。

1992年工場法においては、工場設立の定義の中に“建屋建設”が入っていましたが、今回の改正案ではその文言が入っておりません。これまでは第3カテゴリーの場合、建屋建設前の認可取得が必要とされていましたが、改正後は機械設置前のライセンス取得でも良いと考えられます。

3)対象外業務の規定:新しく、対象外業務(研究・研修用工場、補助的作業場等)が規定されました。

これまでは規制の対象外となる工場は規定されていませんでしたが、今回の工場法では上記のような規制対象外工場・作業場が規定されており、その意味でも規制緩和がなされたと言えるかと考えます。ただ、対象外工場があると、その範囲を広く取って悪用されるようなケースも考えられますので、より詳細な定義づけが必要になってくるかと考えられます。 4)ライセンス有効期間の廃止:改正後はライセンス有効期間の定めはなくなり、一度取得したライセンスは当該事業停止まで有効とされます。

1992年工場法では、5年間の有効期間があり更新が必要とされていました。ただ、この更新に関しては、担当官による賄賂要求等の汚職問題が指摘されていました。今回の改正においては、この更新業務がなくなるため、事業者における手続き事務負担の軽減、および汚職等の発生防止に役立つものと説明されています。一方で更新時における確認もなくなる形となるため、その意味で歯止めがなくなってしまう可能性もあります。  その他、工場拡張時、免許の譲渡、事業停止、許認可料金等、改正は広範囲にわたっておりますが、全般的には規制緩和の方向が強い改正となる予定です。ただ、1992年以降、環境関連規制等の工場法に関連する法律も多々ありますので、そうした他の法律との調整等も含め、本改正施行後の動きに注目していくことが必要かと考えます。

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

(2019年6月号掲載)

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