タイ版 会計・税務・法務
第124回 タイにおける「商務省データベース」
Q:今般、あるタイの会社と新規の取引をしようと考えているのですが、信用情報等の入手はタイでは可能なのでしょうか?
A:日本では、新規取引を開始するときの信用調査を行う場合、民間の調査会社(帝国データバンク、東京商工リサーチ等)のデータがあり、内容も分かりやすく比較的整備されているといえるでしょう。加えて、銀行取引においては厳格な不渡り制度があることから、当座取引のある会社の信用度もわかりやすくなっています。
一方で、タイにおいてはそうした基盤がないことから、新規取引を行う際の相手方の信用状況を確かめるのは、困難があります。ただ、そうした中で、商務省が登記内容や毎年の各企業の決算書等の開示を行っており、これを利用して会社情報を入手することが可能です。
この商務省データベースが今般英語で公開されることになり、外国人にも利用しやすくなりました。HPアドレスは(https://datawarehouse.dbd.go.th/login/en)です。
ここへのアクセスは今の所、特に登録等は必要なく、Sign inをクリックすると入ることができます。検索したい会社名等を入力すると対象となる会社の候補名が示され、そこから選択することによって各会社のデータにアクセスできますが、大きく分けて1. Juristic Person Profile、2. Financial Statement、3. Investment by Nationalityの3部から構成されています。
- Juristic Person Profileでは、一部タイ語表記にはなっているものの、取締役や権限取締役等、会社の登記基本情報が確認できます。こうしたデータは契約を行う際に、相手方の署名者の事前確認等にも有効に利用できると思います。
- Financial Statementは、現在、2018年のものまでデータ検索がほぼ可能となっており、貸借対照表、損益計算書に加えて、主要な財務数値(Financial Ratio)も計算されており、過去のデータとの比較や業界平均、および地域等との比較も可能になっています。財務諸表分析について知見のある方であれば、このデータを利用して信用状態を判断することが可能かと思います。
- Investment by Nationalityにおいては出資者の国別投資額状況がわかります。例えば、タイにおける日系企業とはいえ、外国人投資法上の制限を避けるためにタイ人投資が51%以上であったり、また、シンガポールの持株会社経由出資であったりした場合の情報が、ここから把握することができます。出資者については、より詳しいデータを商務省から入手することも可能ですが、まずはこのデータで概要把握が可能かと思います。
もちろん、タイにおいても国際的な信用調査会社であるDun and Bradstreet社等のデータを入手することは可能ですが、インターネットでの会社内容の検索とこの商務省データベースの利用により、会社概要等の下調べを行うことは可能ですし、内部統制の観点からは、タイにおける新規取引の開始の際の会社チェックの一環として、当該データベースによる会社内容の確認を入れることにより、その会社の状況把握の一助にはなるかと思います。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
(2019年9月号掲載)