タイ版 会計・税務・法務
第129回 今回のテーマは、 「解雇実施時の個人所得税」についてです。
Q:弊社は2000年の初めからタイで工場を運営してきましたが、残念ながら近々撤退をすることになりました。これにともない従業員に解雇金を支払うことになりますが、解雇金に関する税務のポイントを教えてください。
A:米中貿易摩擦の影響や、タイ国内景気の減速や先行き不透明感等により、このところ人員削減や撤退の計画等のお話も増えてきているような気もいたします。今回は、こうした解雇に関する個人所得税について、税務上のポイントを解説させていただきます。 税法においては、会社から退職する場合の退職金等の一時的所得について、大きく分けて二つの税務上の特例があり、一つは①会社都合による解雇に関する特例で、もう一つは②長期勤続(5年)に関する特例となっています。 まず、①の会社都合による解雇に関する特例についてですが、これは労働法119条における解雇の場合、118条で規定された法定解雇補償金について、30万バーツ、もしくは、300日(10ヶ月)分の給与相当までは、所得税の計算から控除されます。 なお、この①の特例は会社都合による解雇にのみに適用されるものであり、自主退職の場合には当てはまらない点は注意が必要です。労働争議のリスク等から、会社都合解雇ではなく、自主退職という形式を選んだ場合には、この特例への留意が必要になるかと思います。 次に、②の長期勤続に関する特例ですが、これは5年以上同じ会社に勤めていた場合、退職時の一時金(法定解雇補償金、任意解雇割増金、プロビデントファンドの払戻、未消化の有給休暇買取、解雇予告手当等)の全ての“一時的に稼得する所得”について、a) 7,000×勤続年数(但し、当該一時所得を超えない)を控除し、さらに、b) 残額の50%を控除の上、累進税率にそって税金の計算を行うものです。 この②の特例は、会社都合かどうかにかかわらず適用されること、また、①と合わせて適用可能です。なお、解雇時に受取る一般の給与残額については、対象外となっています。 貴社の場合には、業歴が長いため5年以上勤務されている方も多いかと思いますので、簡単な計算例を挙げさせていただきますと、 「Aさん:勤務6年、解雇時一時受取金総額(B500,000)内法定解雇補償金(B350,000)の場合。①の特例により法定解雇補償金のB350,000の内、B300,000が控除。②の特例のa)により42,000(7,000×6年)が控除。残額158,000の半額、79,000が控除され、課税対象額は79,000となり、この額に対応する5%の税金(B3,950)を支払う」という形になります。 会社側は上記のような計算方法によって源泉徴収を行う形になりますが、解雇された従業員は、上記のような所得や控除を他の所得と合算して申告(総合課税)するか、他の所得申告と分離して申告するか(分離課税)を選択することができます。 分離課税を選択した場合には、所得税申告時に会社により発行された一時所得に関する源泉徴収票を添付して申告を行います。従業員が多い場合には、解雇に関わる税金計算は時間を要するものとなりますので、事前に十分な準備をすることが必要です。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
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20年2月1日掲載