タイ版 会計・税務・法務
第135回 今回のテーマは、 民商法改訂案(会社関連規定)についてです。
Q:民商法等の改定が検討されていると聞きましたが、どのような項目が検討の対象になっているのでしょうか?
A:前回は新型ウィルスに関連して商務省から出された通達等について解説させていただきましたが、加えて会社運営に関わる民商法上の手続き等について改訂案が現在検討されており、主要な点について述べたいと思います(*今後、修正等が行われる可能性があります)。 「株主総会の招集について、新聞への公告が必要とされなくなります」 民商法では、1175条において株主総会の招集に関して、地方紙への公告と、株主への招集状の送付という二つの手続きが明確に規定されています。このうち公告については、通常総会の場合は1週間前に、特別決議を含む場合には2週間前に行わなければなりません。今回の改正案では、この公告手続きの規定を廃止(*ただし、株主が株券の所持者という規定をしている株式会社は除く)される予定になります。なお招集通知の方については、これまで通り送付が必要とされています。 「会社設立登記を行う登記所の制限がなくなります」 民商法では、1099条において会社設立登記(厳密には基本定款の登記)は、会社住所予定地の登記所に行うことが明記されています。今回の改正案ではこの登記所の選定はタイ国内の登記所であればどの場所でもできることになる予定です。これは一つには登記情報の電子化によりデータの一元化が進んでいることが背景にあるかと思われます。 「登記された基本定款の期限が3年と定められます」 民商法の規定では、会社設立手続きは原則として①基本定款の作成と登記、②創立総会の開催と株式の払込、発起人から取締役への権限委譲、③会社の登記の大きく分けて3段階で、2回の登記を行うことになっています。 ただし、一般的は、①の基本定款の登記と③の会社の登記は、1111/1条の規定に基づき同時に行うことが可能なため、ほとんどの会社設立は一回の登記で行われています。ただ法律上は分離して登記を行うことが可能となっており、かつ創立総会の開催から会社登記(つまり②→③)の間については3ヶ月以内と明確に規定されているにもかかわらず、登記された基本定款の有効期限(つまり①→③の期限)については明示されていませんでした。 今回の改正では、これを3年と明記することが予定されています。実例はあまりないかもしれませんが、①の基本定款を登記することにより「商号(社名)」が登記され、結果として類似社名の使用が難しくなるケースも可能性として考えられますので、基本定款登記の有効期限を設けることにより、そうしたトラブルを防ぐ効果があるのではと思われます。 「取締役会の電子会議の開催が可能ということが明示されます」 これは、前回お伝えした内容で、これまで民商法では明示されていなかった会議形式について、電子会議についても許容される旨、改正される予定です。
民商法は会社運営の基本となるものであり、頻繁な改正は混乱を生むことになりますが、今回の改正案は手続き的にやや古くなったもの等について、改善を図るものと考えられ、早期の正式改正と施行が望まれます。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
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2020年8月1日掲載