タイ版 会計・税務・法務
【第71回】 決算時の財務書類の報告について
Q:当社は昨年12月末が初のタイ法人の決算期であり、現在、財務諸表監査を受けているという認識なのですが、3月末になっても監査が終わったという連絡を受けておらず、日本の感覚からすると大分遅い印象を受けています。これは問題が無いのでしょうか。
A:まず、ご質問に回答する前に、タイにおける財務諸表の法令上の報告期限を確認します。
タイにおいては、決算日における財務諸表に対して会計監査人による監査をうけ、監査済財務諸表について決算日後4カ月以内に株主総会の承認を得るために提出しなければならないとされています(※1)。そして、その承認を受けた財務諸表につき、株主名簿と併せて当該承認を行った株主総会から1カ月以内に商務省商業開発局に提出を行う必要があります(※2)。
また、これと並行して、法人税の申告書類も作成する必要があります。こちらは、決算日から150日以内に申告及び納税(※3)を行うこととされており、申告書とともに監査済財務諸表及び経営者宣誓書を提出することが必要になります。
これらを鑑みますと、御社の場合12月末決算ですので、4月末までに監査済財務諸表を作成して株主総会での承認を受け、5月末までに税務上の処理も完了させる、という流れになるかと存じます。しかるに、3月末までに監査が終わっていないこともありうるということになります。
Q:法令上は問題ないとはいえ、少々タイトなスケジュールになっていると思います。監査人に監査の終了を早めてもらうことは可能なのでしょうか。
A:タイの実務慣行上12月末決算の会社が多いこともあり、個人の監査人・監査法人を問わずこの時期は多忙を極めています。このため、このタイミングでの監査終了日の繰上等のスケジュールの調整は難しいことが多いようです。
スケジュール以外でも、親会社の決算手続上必要な情報(例:連結財務諸表作成用報告)についても事前に連絡しなければタイ側では基本的に作成作業を想定していませんので、決算期になって突然作成を依頼した場合、親会社で想定していたタイミングで情報がもらえない、といったこともあり得ます。このため、会計監査人とは、早めのすり合わせを行われることを推奨します。
Q:仮にタイで必要とされている報告期日に間に合わなかったり、これを忘れたりした場合はどうなるのでしょうか。
A:まず、会計年度終了後4カ月以内に監査済財務諸表の承認のための株主総会を開催しなかった場合は会社に対して最大20,000バーツ、取締役に対して最大50,000バーツの罰金が課されます(※4)。
また、商務省商業開発局に対する財務諸表提出義務を懈怠した場合の罰金は提出が遅れた期間(月数)に基づき計算され、最大で100,000バーツが会社並びに取締役両方に課されることとなります。なお、本罰金は法令上定められている最大限度額であり、実際の罰金額は当局による検討結果により変動します。このため、上記金額より少なくなることもあり得ます。
また、法人税申告が遅れた場合、無申告とみなされると未納付額見込み額の200%が加算税として課されます(※5)。また、期限後に納付したとしても1カ月毎に未納付額の1.5%の延滞税を支払う必要が発生します(※6)。
Q:もし万が一税務申告の基礎となる財務諸表そのものを準備出来なかった場合はどうなるのでしょうか。
A:この場合、歳入局は当該会計年度に属する総収入又は総売上高について経費控除前の総額のいずれか多いほうの金額に5%を乗じた額を税額として賦課決定する権限を有するとされています。そして、もしその総額が明らかでない場合は、従前のいずれかの会計年度における同様な総額を参考にして税額を賦課決定する権限を有するとされています。
さらに、従前の会計年度に係る総額すら明らかでない場合には、その適当と認められる方法により賦課決定を行う権限を有する、とされています(※7)。いずれにせよ、会社財政上の負担になることは間違いありませんので、遅滞なく申告をされることをお勧めします。
(※1)民商法典第1197条1項
(※2)商務省商業開発局発表ガイドライン(2013年4月)
(※3)歳入法典第69条
(※4)株式会社等の違反に関する法律第16条、第28条
(※5)歳入法典第26条
(※6)歳入法典第27条
(※7)歳入法典第71条
2015年4月