タイ版 会計・税務・法務
【第85回】 個人所得税の減税について
Q:タイの個人所得税について、今度減税が行われるという話を聞いたのですが、どのようなものでしょうか?
A:はい、それは4月の閣議で了承された来年からの個人所得税に関するものです。以下ではタイにおける個人所得税の体系と今回の減税措置について解説させていただきたいと思います。
タイにおける個人所得税の計算は、総所得—非課税所得—控除額=課税所得という形で、まず課税所得を計算し、これに累進税率を適用して、税額を計算することになります。したがって税額計算を行う際には、①総所得に含まれるものは何か、②非課税所得としてそもそも参入されない所得は何か、③控除額として計算される項目は何か、④課税所得に対して適用される税率はどうか、という4つの点から各項目を点検する必要があり、また税金が安くなったかどうかというのも、すべての観点を総合してみてみる必要があります。
例えば、④の税率が低くなった場合においても、たとえば②の非課税所得の範囲が狭められていたり、③の控除金額上限が少なくなったりしていた場合、見かけ上は減税であっても、全体としては増税であるケースも発生する場合があります(日本等ではいわゆる財源確保と称して、上記のようなトレードオフが行われることがあります)・
さて、今回のタイの個人所得税の骨子は、③の控除の内容変更(控除額の増額)と④の適用税率の改定(一部引き下げ)によるもので、全体として減税になるような効果をもっています。
まず、③の控除内容の変更ですが、本人控除がB60,000(現在B30,000)に増額、配偶者控除がB60,000(同B30,000)、子供控除がB30,000/一名で上限なし(同B15,000/一名で上限3名)等となっておりますので、2017年度の所得税申告の際には、注意が必要です。
なお、駐在されている方の中には、タイでの税務上の登録においてこうした配偶者や子息(扶養者)の登録が正確に行われていない方も散見されますが、控除枠が大きくなりますと例えばご結婚されてお子様が二人いらっしゃる場合には、もし間違えて「独身」と登録されている場合に比べて、(60,000+30,000X2)X35%=42,000と年間で10万円以上の税額の差になってきますので、登録が正確になされているかご確認ください。
また、今回の減税では④の税率についても変更があります。タイや日本等多くの国で採用されている累進税率制度においては、所得の金額において異なった税率が課せられます。この場合所得が多くなれば単純にその税率を全所得にかけるのではなく、所得のうち、一定の金額に税率をかけ、その金額を超える部分について高くなった税率をかけるという方法がとられています。
例えば、タイの場合、所得が年間15万バーツまでは税率0、そこから30万バーツまでは5%の税率、同50万バーツは10%となっていますが、50万バーツの所得がある場合に税額は50万バーツX10%=5万バーツではなく、15万バーツX0%+15万バーツ(15万バーツ〜30万バーツ部分)X5%+20万バーツ(30万バーツ〜50万バーツ部分)X10%=27,500バーツとなります。今回の変更はこの所得帯に変更があり、最高35%の税額が課せられる所得がこれまでの400万バーツから500万バーツに引き上げられました。
今回の減税は、控除額の増額、最高税率適用所得の引き上げ、および確定申告不要者の拡大(こちらは紙面の都合で説明は省かせていただきました)等により、ここ数年の賃金の上昇による累進課税制度下の税負担感の増大に対処したものと言えるかと思われます。
今後取り上げてほしいというようなテーマがございましたら、参考にさせて頂きたく存じますので、下記のEmail宛にご連絡頂戴できますと幸いです。
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著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2016年6月