タイ版 会計・税務・法務

【第93回】 不動産の税務上の売却価格(個人所得税)について

Q:私は、長くタイに住んでおり、居住用のコンドミニアムを購入して住んでいたのですが、日本に帰ることになり売却を考えています。売却の際の評価額について近々変わると聞いたのですが、これはどのようなものでしょうか?

A:まず、不動産の売買に関しては、税法第48条(4)において“商取引もしくは営利の目的によらず取得した場合”においては、その利益は通常の個人所得税計算に含めることなく別途納付(いわゆる分離課税)を行うことができるとされています。今回の例の場合は、居住用として購入されており、他人への賃貸等のためではありませんので、この規定を使うことができるかと思われます。

土地を取得した際に、遺産相続や贈与の場合を除く通常の購入の場合には、この分離課税の方法をとると、((売却価格-売却価格X係数)/保有年数)X税率(*)X保有年数という式で、分離課税額を計算することになります。*税率は累進税率のため、一旦、一年あたりの経費控除後課税額を出したのち保有年数をかけることによって、保有期間全期間における税額を算出する形をとっています
さて、この式を見るだけでは、あまりよくわかりませんが、まず買った時の価格(購入価格)が出てきていませんので、「購入価格に関係なく“売却価格”に応じて課税される」ということわかります。したがって、購入時に高く買ってしまって、売却時に不動産価格が安くなった場合においても税金がかかってしまうことになります。

それでは、税金ばかりとられておもしろくない制度かというと、実はそうでもなく、税法上では①売却価格は実際の売買価格や市場価格にかかわらず土地法(Land Law)における評価額(一般的には市場価格より低くなっています)で良いとされていたこと、②式における係数(保有年数によって50%〜92%まで)定められており、当初どんなに安く不動産を買ったとしても50%まで経費として控除が認められることーから、不動産価格の上昇局面においては、税金支払い額が小さくなるという点があるかと考えます。(なお、分離課税をとらずに他の所得と合算することもできますが、その場合も売却価格から控除できる金額は、上記式に基づいた額となります)
さて、ご質問の点ですが、今般閣議決定で上記①の売却価格について“土地法の評価額と実際の売買価格のどちらか高い方”という形に改正されることが承認されました。そのため、これまでより税金支払い額が大きくなってしまう可能性があることに注意する必要があります。現政府は、税金の適正化につとめていますが、世界的にみると、市場価格や実際の売買価格をベースとして課税するのがより一般的ですので、至極まっとうな改定ではないかと考えられます。
いずれにせよ、もし不動産の売却をお考えの場合には、現行の土地法における評価額と市場実勢価格を考慮しながら、税金対策を考えることが必要になるかと思われます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

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