タイ版 会計・税務・法務

【第97回】 民商法典の改正(配当実施)について

Q:タイでの配当に関する民商法典の規定が改正されたと聞いたのですが、どのようなものでしょうか?

A:タイでは配当の実施については、民商法典の第1201条において、これまでは実施の条件として、①総会の決議により行わなければならない、および、②配当は利益からしか払うことができない、という条件が定められていました。これに対して、今般タイの国家平和秩序維持評議会(NCPO)が通達NCPO No. 21/2560を発表し、上記に加えて“配当の支払いは、配当を決議した取締役会もしくは株主総会から、1カ月以内に行わなければならない”という規定を追加しました。こうした配当金の払い出しの期限を決めた規定はあまり他の国には見られませんが、同時に行われた公開会社法や民商法典の他の改正(例えば、株主との意見の相違における対応方法の規定)とあわせて、少数株主の保護の一環として導入されたと説明されています。

さて、これまでは配当を決議したにもかかわらず、実際の配当を支払う現金がないために、支払いを行わずに未払金に計上しておくといったことも行われていました。特に合弁企業等において利益を計上したために、配当の決議だけは行っているものの、現金不足から支払いは行わずに長期の間未払いとし、実質的には株主から無利息でローンを受けているというような方法をとることも民商法上は可能でしたが、今般の改正によってこうしたやり方はできなくなりました。

また、1カ月以内に配当実施をするということは、すでに現金を持っていることが実務的には必要であり、ある意味、配当は手持ち現金の範囲内で行うという形に変わったと考えられるかもしれません。タイにおいては、利益の留保に関する規制は特になく(他の国では留保利益金に対する課税や法律上の規制がある場合もあります)、また、民商法典では配当による株主への利益の還流より、利益留保による会社の財務状況の健全性維持に重点をおくような規定ぶりとなっており(1202条では、配当の際の利益準備金の積み立てが義務付けられております)ますので、間接的に企業の財務状況の健全性の維持の効果があるかもしれません。

この新しい規定は4月4日より有効になっており、それ以降の株主総会に適用されることになります(過去に払い出しを行っていない未払い配当金について明確な見解はありませんが、この改正に沿って早く支払うべきとされております)。年次株主総会は決算日より4カ月以内とされておりますので、12月決算の会社ですと4月中、3月決算の会社ですと7月中に株主総会が開催される場合が多いと思いますが、配当実施を検討されている場合には、今回の改定について十分な注意を払うことが必要かと考えます。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

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