タイ版 会計・税務・法務
【第111回】 労働許可(ワークパーミット:WP)取得の改定について
Q:最近、労働許可取得の規制について緩和があったと聞いたのですが、どのようなものでしょうか?
A:先般、政府は“外国人労働管理に関する緊急勅令No.2 (仏歴2561年)”を発表し、本年3月28日から施行されました。これは、昨年発表された“同緊急勅令No.1(仏歴2560)”があまりに複雑な規定であったこともあり、簡素化されると同時に、これまでと違った緩和規定も含んでいるものです。以下ではその内容について、主な点を解説させていただきます。
1. WP取得対象者の緩和:タイ国内において以下の活動をする人については、WPの取得が免除されることになります。
①随時の企業訪問、会議、セミナー、トレーニングへの出席、スポーツ活動への参加(※)、
②国家の発展に有益な投資や事業を行う、投資家、高度専門家、
③支店・駐在員事務所の運営者(支店長、駐在員事務所長)。
①については、これまで短期の打ち合わせのための会議出席であっても、原則は短期労働許可を取得しなければならない等、実務上の対応が困難であったものが、実態に合わせて緩和されたものかと思われます。※ただし、これは随時(=長期的なものではない)の活動が対象ですので、目安として15日を超えるような滞在は労働許可取得対象になるという見解もあります。②に関しては、今後の対象者の明確化が望まれます。
③に関しては、先般の商務省の外国人事業法の規制対象リストから駐在員事務所の活動が除外されたこととあわせて、タイ国内における駐在員事務所の運営が容易になるものと考えられます(ただし、これまで通りビザの取得は必要です)。なお、こうした緩和に伴い、これまでWPの提示が手続き上必要であったもの(例:口座開設、自動車の取得等)についての対応は、個別に対応が必要になってくるものと思われます。
2. 緊急就労許可の延長が可能:これまでは15日以内の緊急就労許可については延長が認められていませんでしたが、改定にともない、緊急就労の対象となる業務が15日以内に終了しなかった場合には、さらに15日間の延長が取得できることになりました。上記の取得対象者の緩和に加えて、この延長の認可規定によって、30日以内の滞在であれば、実務的にもほとんどケースにおいて法律にそった形で対応が可能なのではないかと思われます。
3. 労働局への通知規定や罰則の緩和:その他、通知の簡素化や、罰則の軽減が規定されており、昨年の改定で問題の多かった項目についての改善が行われています。
タイで働く外国人にとって(もっとも、これは他の外国で働く場合や、最近話題になっている日本における外国人就労の受入という観点では同じですが)、ビザや労働許可の取得、更改手続きは、規制のシステム(ビザー入国管理と労働許可が管轄・法体系が別)、手続き書類、認可の要件等が複雑で対応が難しいものの一つですが、今回の改定のように合理化・簡素化が計られるのは好ましい動きといえましょう。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2018年8月