タイ企業動向

第5回 導入進むタイのLED

産業が集積するタイで、工場内の照明などを寿命が長くて消費電力が低いローコストのLED(発光ダイオード)電球に交換したり、供給市場に新たに参入する動きが広がっている。背景にはコスト削減への一層の取り組みや、地球環境への理解がより広がったという市場の動きなどがある。政府もこれを後押しする考えで2020年までを集中投資期間と位置づけ、全政府機関の照明電球を従来の白熱球からLED電球に切り替えるほか、全長4500kmを越すアジアハイウェイ沿線の電灯などについても保守作業が格段に少なくなるLEDに順次交換していく方針だ。連載第5回は、タイで本格導入の始まった次世代照明事情について概観する。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

国際的な自動車メーカーで米国のビッグスリーの一角を占めるのが創業100年を超すフォード・モーター。同社では今後、人口が増加し経済成長が期待されるアジア太平洋地域を主要な生産及び販売の拠点と位置づけ、積極的な投資を展開する計画でいる。その第一幕として始まったのが同地域にある全生産工場のLED化だ。工場内にある全ての照明用電球をLEDに替えコスト削減を一気に進める考えで、そのための予算500万米ドル(約6億円)を計上。昨年以降、インド工場などを皮切りに生産工場内の白熱照明をLED照明に切り替える工事を続けている。

タイでも昨年末までに工事が完了した。ラヨーン県にあるいずれも子会社のオートアライアンス・タイランドとフォード・タイランド・マニュファクチャリングの2工場。合わせて1万個以上にも上る照明を全てLEDとした。これにより年間の消費電力は190万~200万キロワット時(kWh)削減することが可能となったという。これまでにタイとインドのほか、中国、台湾、ベトナムでも付け替え工事を終えており、合わせて1800万~1900万kWhの節電を達成した。

日系企業の間でもLEDは引っ張りだこだ。水産大手の横浜冷凍(ヨコレイ)が昨年8月に竣工を発表したチャチューンサオ県の「バンパコン第2物流センター」では、庫内の全照明でLEDを採用。低温物流ニーズに対応した同センターは敷地面積約2万6000平方メートル、建屋の延床面積約1万8000平方メートルで冷蔵収容能力は約2万3000トン。特徴的なのは消費電力を抑えるだけでなく太陽光発電システムを取り入れ、電力供給の面からも地球に優しくした点だ。設置されたパネルの発電能力は国内最大規模である583.1kW。運送・倉庫業などでも今後、同様の動きが加速するものとみられる。

 

こうした市場の動向に対応して生産・販売各社も本腰を入れ始めた。大手電子機器部品メーカーのミネベアは昨年後半以降、タイのLED照明市場への本格参入に乗り出した。同社が持つ最先端技術を使いLEDとレンズの間隔をモーターで制御。光を照射したい場所に効率よく当てることができるようにした製品を投入する。光を液晶画面全体に広げるバックライトの技術を応用した。光の調整はスマートフォンやタブレット端末など無線通信を使って操作可能とする。LED照明市場は一部で価格競争に突入しているが、同社の持つ高い付加価値を加えることによって新たな需要が掘り起こせるとみる。

屋外の大型照明機器などを主力とする大手電機メーカーの岩崎電気もタイでの現地生産を開始した。タイでは競技場や各種イベント施設、工場の建設が引き続き堅調で、大型投光器などについても新たな需要が増すと判断した。設計については引き続き日本で行うが、日本や中国などから部品を調達、タイの地場メーカーに生産を委託する。当面は日系メーカーが顧客の中心となると読むが、その先にはタイの官公庁が発注する道路灯や公共施設の受注も視野に入れる。同時に周辺諸国への輸出も手掛けていく方針だ。

地場メーカーも攻勢を強めている。照明機器メーカーのライティング・アンド・イクイップメントはバンコク北郊のパトゥムターニー県に8億バーツを投じ、新工場を建設する。LEDの民間需要が増し、新たな市場が形成されると読んだ。これまでは官公庁向けの販売が主力であったが、軸足を広げる。一方で、周辺国でのニーズも高まっていくとみて、輸出にも積極的に取り組む考えだ。

国内大手のランプタン・ライティングもLED市場の急激な拡大を商機とみる一社だ。これまで主に中国からの輸入に頼っていた調達ルートの一部を自社生産に切り替えて、製品価格の引き下げを実現した。安価な外国製などに対抗し、高品質を前面に打ち出すことにしている。同様に、民間企業向けの需要が増していることから専業の営業チームを置き、ショールームも開設する構えだ。

 

製造業や倉庫業を中心に企業がこぞってLED導入に積極的となるのは、長寿命で消費電力が低いというそのローコスト性があるからだ。自動車など企業の業績は一部で頭打ちの感があり、より一層のコスト削減が必要とされている。一方で、消費生活の拡大などから必要電力量は毎年上昇を続けており、夏季に集中する電力の逼迫は新たな社会問題ともなっている。

こうした状況を受けてタイ政府は集中投資期間の終期である20年までに、合計で400万個あると推計される全政府機関の照明用電球をLEDに一斉に交換する作業を開始。年に50万個ほどのペースで進めていく計画でいる。このほか、タイ地方電力公団(PEA)もタイ高速道路公団(EXAT)と合同で、アジアハイウェイなど全国の高速道路や高規格道路の沿線に設置されている全照明をLEDに切り替える工事を進めている。道路灯は設置場所が高く保守点検作業も大がかり。長寿命のLEDであればこうした作業も少なくなり、消費電力量も抑えることができると判断された。

市場関係者によると、タイの電球市場は300億~350バーツほど。このうち現時点でLEDが占める割合は12~15%とみられている。ただ、約3年前に比べその比率は2倍前後に急成長しているといい、「間違いなく今後、伸長していく業界の一つ」と関係者は口をそろえる。リース会社の参入もあって初期投資を抑えるスキームもほぼ整備された。大手企業ばかりでなく、中小・小規模企業もが入り乱れてのタイのLED市場。当面は目の離せない状況が続きそうだ。(つづく)

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