タイ企業動向
第33回 振るわないタイの非日系自動車業界
タイの自動車業界の今年上半期(1~6月)の新車販売状況が出そろった。トップは昨年に引き続きトヨタで対前年比26.2%増の約14万台。次いで、いすゞ、ホンダ、三菱自と日本勢が続く。非日系メーカーとしては7位に米フォード、9位に中国最大手の上海汽車集団とタイ財閥最大手のCPグループとの合弁ブランドMG(名爵)、10位に米GMのシボレーが登場するものの、いずれも大きく水を開けられている。近隣のマレーシアやベトナム、シンガポールでは非日系が40~50%台で推移しているのとは対照的だ。今なお日系が80%台後半のシェアを維持するタイの自動車業界。定期連載の今回は、それを追うタイの非日系メーカー各社がテーマ。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
昨年12月半ばのインド系タタ・モーターズ(タイランド)のバンコクオフィス。経営会議に臨んでいたサンジェイ・ミシュラ最高経営責任者(CEO)は、苦渋の決断で部下から提出のあった2018年のトラック販売計画を承認した。前年実績の7倍にもなる1100台。3月には小回りの利く新ブランドの中型トラック「ウルトラ」シリーズ(9~11トン)のタイ市場投入を決めるなど〝攻め〟の姿勢で臨むことを確認していた。しかし、足下では深刻な販売不振と部品を含む在庫の増加で、一部の取引先からは立ちゆかなくなるのでは懸念の声が聞かれていた。
タイでの現地生産をタタが正式に停止すると決めたのは、それから8カ月近くが経過した8月上旬のことだった。この間、中型の新製品「ウルトラ1014」の販売を開始したほか、車両を使った移動式のメンテナンスサービスを始めるなど、振るわないタイ市場で持てる原資の逐次投入を繰り返していた。結果、かつては年5000台を超えていた新車の販売台数は、昨年が対前年比13.9%減の986台。今年上期になっても回復せず、6月末現在前年比15.9%減の392台に落ち込んでいた。
タタは07年、現地企業のトンブリ・オートモティブ・アッセンブリー・カンパニーと合弁会社を設立、タイ市場に参入した。これまでに世界約130カ国に進出、中型以上のトラックやバスでは上位5位に入る国際的メーカーに成長していた。一方、ピックアップトラックなど小型商用車ではベスト10入りすらできず、タイを足がかりに東南アジア一円さらにはオーストラリアなど大洋州地域へ販売網を拡大する戦略だった。
アセアン初となる生産工場をタイに置くと決めた背景には、輸出基地としての地政学的利便性のほか、商用車販売の7割をピックアップトラックが占めるというタイ市場の特性があった。農村ではトラクター燃料として軽油が広く流通し、各戸にドラム缶が置かれていた。ディーゼル車が過半を占めるインド市場で成長したタタとしては、得意のディーゼル機関で攻勢を仕掛けていけばタイの岩盤市場でも穴が空けられるとの判断があった。
軍用需要に軸足を置きすぎたことにも誤算があった。タイ陸軍は老朽化のため、1500~2000台の規模で軍用トラックなどの更新を進めている。ここで最終候補まで争ったのが日系メーカーだった。だが、導入後のメンテナンスや「安いだけ」というイメージなどで不安が残るとされたタタ。業績の飛躍的回復とまでとはならなかった。
タイ市場に進出して以降、総合自動車メーカーとしての立ち位置にこだわり過ぎたとの指摘もある。トラックに続き乗用車販売を18年にも始める計画で、前年には生産能力を引き上げるため当初からのパートナーを切り替え、バンチャン・ゼネラル・アッセンブリーの工場に移管。可能生産台数を1万台超に。販売目標も前年の2倍以上となる年3000台と引き上げた。だが、巨額の投資の裏では深刻な販売不振が続いていた。どっちつかずの戦略が足を引っ張った。
自動車産業の集積地タイには、日系以外にもさまざまな外国メーカーが進出を続けている(グラフや別表参照)。しかし、その成績は軒並み振るわないか、プラスであっても日系に大きく水を開けられるなど何らかの問題を抱えているケースが多い。成長の兆しが見られるのは、次世代自動車としての電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などを手がけるメーカーにほぼ限られる。
タイ政府は36年までに、タイ国内のEVやPHVの登録台数を120万台まで引き上げる目標を定める。市場の回復も進んで、今年の新車市場は98万台にまで上方修正されるとも見込まれている。これに呼応して事業を展開しているのが、PHVなどを手がけるベンツやボルボなどといった欧州勢だ。日系メーカーが席巻するタイの自動車市場は、日系の圧勝という第一幕を終え、次世代自動車をステージとした第二幕が始まろうとしている。(つづく)
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