タカハシ社長の南国奮闘録

第55話 自信力

シーラチャの隣人に、タイ進出を成し遂げた石井という男がいる。カフェのオーナーから工学系レンズの分野に飛び込み、世界を羽ばたいてきた異色の人物だ。今回は彼の持つ「自信力」についてお伝えしたい。

彼は頭の回転が速く、そろばん勘定も確かで目の付けどころが鋭い。律儀で人当たりも申し分ない。家族想いの温厚な親父で、情熱的で涙もろい面もある。少し褒めすぎなので一つぐらい落ち度が欲しいところだが、すべて事実である。

彼は昔、田舎で小洒落たカフェを営んでいた。料理に心得があり、味も評判で店は順調に繁盛していた。しかし数年後、試練のときが訪れた。店が立ち行かなくなったのだ。理由はいろいろあるのだろうが、現実として回らなくなった。しかし、彼は逃げなかった。関係先にきちんと説明して、一軒一軒、迷惑を掛けていることを詫びてまわった。そして長年かけてきっちりと返済を終えた。

ちょうどそんな頃、親戚筋からモノづくり企業の経営陣としてのオファーがあり、新しい世界に挑むことを決断。ところが、神様からの贈り物のように思えたその話も、リーマンショックという壁に阻まれてしまう。規模を縮小する以外に手だては無く、常に厳しい経営判断を迫られることとなった。

そんな大きなピンチの中で、大きなチャンスをタイ進出に見出した。彼はかねてより、FTA(自由貿易協定)で結ばれた諸外国と貿易をすれば、関税枠をはずれて顧客ニーズに応えられるのではないかと戦略を練っていた。そして弊社(テクニア)の支援事業の噂を聞きつけて、わざわざ遭いに来たのだった。

これは私の想像だが、調べに調べた結果、最後は自分の直感を信じて行動を起こしたのだと思う。決断したら迷うことなく、数ヶ月後には私の家の二軒隣の一戸建てを購入し、住まい兼事務所(&工場)に改築して事業をスタート。それを後押しするように、素敵な奥様と思春期のご子息2人を日本から呼び寄せ、万全の体制で挑んだ。

結果は自ずと成功のほうへ導かれていった。社長を継いで間もなくタイ進出に成功したことは紛れもない実績として本社のスタッフを驚かせ、同時に信頼を得ていった。タイのスタッフも順調に成長して、どんどん次に結びついており、さらなる飛躍のため、現在は日本側で新たな事業展開を見据えている。

この成功の鍵は、石井社長の人柄、つまりこれまでの人生でたくさんの涙をこらえ、流してきた七転び八起きの経験と、大切にしてきた人の縁と直感力と信念、そして自身を信じる自信力だと私は思う。

感謝を忘れず、自信力を持つ人は大きな力に守られる。自信力を磨き、タイの未来を語りながら、格別な酒を友と飲んでみませんか?

高橋 弘茂
名古屋市中川区の精密加工部品メーカー『TEKNIA』の4代目。1969年愛知県生まれ。1989年に同社の前身『高橋兄弟鉄工所』に見習い入社。現場経験を積んだ後、『Yamazaki machinery UK ltd』などを経て2001年8月『タカハシテクニア』代表取締役就任。現在はVITPROJECT (THAILAND) アドバイザーを勤めるほか、マネジ個性学コンサルタント(セミナー開催)なども手掛ける。
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