2018年、タイ経済復活の烽火 勢い取り戻しつつある輸出 政府はEECへの投資を推進

輸出向けの生産はタイ経済の重要な柱となっている。一方で、製造業は先進国と発展途上国の間に挟まれ、競争圧力を受けている。そこでタイ政府はタイランド4.0政策を打ち出し、製造業に各種の技術導入を進めさせようとしている。コネクティビティーをはじめ、データ、オートメーションの導入で将来の時代に合った新製品の開発力を付けさせるのがねらいだ。

タイ工業連盟のジェン会長は「今年下半期の工業セクターは、主要な貿易相手国の経済の回復で輸出が増える傾向が続く。同じく今年の農業生産が豊富な水と好天に支えられて農家の所得を増やし、民間消費に力が入ってくるだろう」と見通す。

今年の経済成長率は3.5%が見込まれる。政府によるインフラ投資が進むほか、タイ工業連盟の見立てでは民間投資が各方面で進む兆候が出ている。輸出が増えるに従い、設備稼働率が徐々に上がっている。また東部経済回廊(EEC)に外資の関心が集まっており、Eコマースの事業家もタイ市場をターゲットにしている。外資の関心は輸送、物流、データ分析にも及ぶ。タイ国内では労働者不足、家計債務がようやく緩和する兆候が見えている。来年の外資の投資が増えそうな環境になってきた。

来年の輸出は今年に比べて7.0%増と高成長が予測される。国際貿易が世界的に活気付いてきたことによるもので、世界市場のニーズに応じてタイの輸出品も、自動化関連、ロボットなどが増えている。タイの電機電子製品は根強く増加しており、来年の輸出の花形となるだろう。

ジェン会長はさらに「EECへの投資は地域の工業セクターを飛躍的に発展させる。タイが地域のエネルギー産業に対する投資の中心になることに加え、鉄道複線化、モーターウェイ、レムチャバン港、ウタパオ空港、マプタプット港などのインフラが整備されていく。EECこそが多くの投資の受け皿となり、次々と新しい街が生れてくる有望なエリアである」と自信を見せる。

民間のケリー・サイアムシーポート社では、オートマッチング機能を持つナショナルシングルウィンドウ(NSW)システムを通じたデータの連結により、内外のエクスポーターの所在を素早く突き止めることができる。港までコンテナを運ぶ工程を省くことができ、従来2分の所要時間がわずか10秒に短縮され、大幅に時間が節約できる。24時間稼働で、輸送担当業者の業務を効率化している。政府の戦略・計画に沿ってロジスティクス全体の開発が進められている。ケリー・サイアムシーポート社のクレットチャイ氏は「現在、海上のロジスティクスは政府の政策に沿うまで充分に発展している。輸出入の各種データもアクセス可能で調査が進められる。業務に関係する各方面の情報収集がきわめて迅速になっている」と語る。

EEC開発プランもかなり明確になり、人材開発、インフラ建設など、EECエリアへの民間投資の動機付けも盛り上がってきた。タイ市場は体系的な医療機器、バイオ技術主導のアグロ産業、航空機産業、ロジスティクスなどの多方面の部門を発展させる大きな潜在能力を有している。

政府は人材開発を本格的に先行させている。製造部門に先進的なイノベーションを導入する努力が進められている。タイを地域の医療ハブにする姿勢がいよいよ明確になってきた。工業団地に研修・研究センターを建て、同時に完璧な環境管理を進める。外資の進出とともに民間セクター、研究施設、教育機関もまたEECの可能性を充分に開発すべく動き出してくる。

世界経済の回復でタイも輸出増へ

各分野の貿易はどうか。アピラディー商業相は語る。「今年の輸出は7%増と見込まれる。特に8月の輸出は212億2,400万ドルで前年同月比13.2%増だった。過去55カ月間の最大の伸び率である。輸入は191億3,400万ドルで14.9%増、20億9,000万ドルの貿易黒字が出た。年初来8カ月間(今年1-8月)の輸出累計は1,536億2,300万ドルで前年同期比8.9%増、過去6年間最大の伸び率だった。世界経済の回復が顕著になり、貿易相手国の経済が上向き、農産品、工業製品ともに価格が上がったためだ。また輸入の累計は1,447億5,000万ドル、累計で88億7,300万ドルの貿易黒字が出た」。

アピラディー商業相によれば、輸出の増加は貿易相手国の輸入の増加に支えられたもので、中国、CLMV、日本、アメリカなどがメインの市場となっている。農産品の輸出増が続いており、金額的にも数量的にも10カ月連続増で24.7%増に達した。特に米、野菜・果物(生鮮および冷凍、缶詰および加工)、天然ゴム、砂糖、鶏肉(生鮮および冷凍、加工)、シーフード(冷凍、缶詰および加工)などがそろって伸び、キャッサバ製品は5.3%減った。主な輸出市場は中国、日本、インドネシア。

工業製品は6カ月間連続増で12.2%増となった。特に金、ゴム製品、コンピュータおよび部品、エアコンおよび部品、鉄鋼素材・製品などが伸びた。アメリカ、日本、EUなどの基本市場の伸び率は7.5%、中国、CLMV、南アジア、韓国などの活気ある市場の伸び率は16.4%、オーストラリア、中東、中南米などの弱い市場の伸び率は0.9%に止まった。

マーケティングの各部門は、旧市場の確保と新市場の開拓を進めており、例えば中国では従来の大都市から地方都市へとターゲットを変化させている。狙いは輸出の拡大である。一方、リスク要因としてバーツ高があるが、懸念しすぎる必要は無く、輸出増の勢いを削いだり、競争力を弱めるほどの影響は及ばないだろう。地域各国の通貨も同時に上がっているためで、今のバーツ高はむしろ来年に効いてくるかもしれない。

米、鶏肉、エビなどの輸出が増加

タイの重要な柱の一つである食品加工産業にも堅調に伸びている。食品研究所のヨンウット所長は「今年の年初来9カ月間(1-9月)の食品部門のGDP成長率は2.9%で、タイからの食品輸出は2,526万トンで8.3%増、金額的には7,687億9,700万バーツで9.4%増となった。アメリカ、EU、日本、中国などタイの輸出相手国の経済がそろって上向き、中東、アフリカ諸国の経済も良い兆候を示している」と語る。

数量、金額ともに伸びた輸出品目は、米、鶏肉、エビ、調味料、ココナッツ製品、即席レトルト食品など。一方、数量は減ったが金額が伸びた輸出品目は砂糖で、上半期の砂糖の世界相場の上昇に伴う現象。ツナ缶詰の輸出も同様の動きで前年比100%増に近い原材料コストを販売価格に上乗せしている。パイナップル製品(パイナップル缶詰とパイナップル果汁)は海外の需要増に応じて生産が増えた。工場向けパイナップルの値下がりで輸出品の価格が下がり、需要増が起きている。

また数量、金額ともに減った輸出品目は、キャッサバ澱粉とフルーツ果汁(パイナップル果汁を除く)。特にキャッサバ澱粉は、メイン市場の中国でベトナム製品との激しい競争に晒されている。ベトナム製品は13%の付加価値税が免除される国境貿易を通じて中国に流れ込んでいる。また2番目の市場であるインドネシアでも大きく減退した。インドネシア産のキャッサバ澱粉の消費が伸びたことによる。一方、フルーツ果汁の減退は、ココナッツ果汁の大手メーカーが欧州果汁協会(AIJN)の新基準に従って減産したため。これは短期的な動きで、来年中には元に戻るだろう。

今年の年初来9カ月間の食品輸出は中東市場で25.2%増、中国で22.2%増、CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)で19.9%増、アフリカで17.1%増と増えた一方、アセアン諸国では10.7%減、アメリカで2.3%減、英国で10.9%%減となった。CLMV諸国はタイ食品にとって第1の輸出市場で、全体の16.6%を占める。以下、日本が13.5%、先発アセアン諸国が11.6%、米国が10.6%、アフリカが9.3%、中国が9.0%、欧州が6.0%、中東が4.2%、オセアニアが3.3%、英国が3.0%、南アジアが1.6%と続く。

ヨンウット所長はさらに「今年のタイ食品の輸出総額は1.03兆バーツに達する見込みで、前年比8.4%増となる。特に最終四半期は世界経済の拡大、原料コストの安値安定、国内の農産品の豊富な産出がベースとなり、また東アジアでの鳥インフルエンザやブラジルの食肉安全性の疑惑拡大でタイの鶏肉のニーズが高まり、クリスマスから新年にいたる食肉のニーズがタイに向いてきた。今年の最終四半期のタイの食品輸出は世界的なニーズに導かれる傾向となる」と見立てる。

来年のタイの食品部門は、好調が続いて輸出は8.7%増と予想される。通年で1.12兆バーツに届くだろう。主な市場はアセアンが全体の30%を占め、日本が14%、アメリカが10%、中国と南アフリカがともに9%。プラス要因としては第1に世界の経済成長のさらなる増進。最近、国際通貨基金(IMF)は世界経済の成長率は今年が3.6%、来年は3.7%に伸びるとの予測を出している。第2にタイの農産品が気候に恵まれて豊作であること。特に米、工場向けサトウキビ、工場向けパイナップル、エビ、鶏肉など。一方、キャッサバと飼料用トウモロコシは減退気味。第3に飼料の値下がりで畜産品の生産コストの安値安定が続いている。畜産品の輸出に追い風となるコスト減は、トウモロコシ、大豆、魚滓の値下がりに代表される。第4に世界市場で値上がりが期待できる輸出品は、米、鶏肉、エビ。第5にエネルギー・コストも低レベルで食品産業から輸送部門まで輸出品に対するコスト圧力を高める懸念はない。

さて、タイの輸出食品の形態はレトルト食品などすぐに食べられるものが豊富になった。1998年は即席・レトルト食品は全体の35%、残り65%は生鮮食品、食材、加工食品が占めていたが、昨年は即席・レトルト食品と生鮮食品、食材、加工食品がともに50%で均衡を保っている。20年間、即席食品・レトルト食品は年率7.3%で伸びてきたが、生鮮食品、食材、加工食品もまた年率5.0%で伸びてきた。

世界経済の情勢にもよるが、これまで見てきたように今後もタイの工業品、農産品共に底堅い伸びが見込まれている。タイ経済はいよいよ軌道に乗るのか、2018年へ関係各所の期待は高まっている。

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