Smart City~タイの未来都市構想図~
そもそもスマートシティとは何か。日本の国土交通省ではスマートシティを「都市の抱える諸課題に対して、ICT(※)等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、 全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」(「スマートシティの実現に向けて 【中間とりまとめ】」より)としている。※Information and Communication Technology=情報通信技術。より工業的に言い換えれば、IoTの技術を使って交通や治安、医療、電力などの街のインフラの質を向上させる取り組みといえる。タイ政府では近年、大きな関心を向けており、いくつかのモデル都市を設定し、各都市の問題、テーマに合わせた開発を目指している。そして、ゆくゆくは全国に展開していく考えだ。
今年5月にはタイ投資委員会(BOI)がスマートシティの開発に向けた事業に恩典を付与することを発表している。スマートシティは人々の生活を6つの側面から向上させる。効率的な移動をもたらすスマートモビリティ、公正な社会や教育を実現するスマートピープル、生活の安全保障をサポートするスマートリビング、ビジネス環境を改善するスマートエコノミー、効率的な公共サービスを目指すスマートガバメント、グリーンエネルギーなど環境に優しいスマートエナジー&エンバイロンメントの6つのプラットフォームだ。そこで、スマートシティの通信環境などのインフラ(例 光ファイバーや公共WiFi、オープンデータなど)開発への投資。ただし、先述の6つのプラットフォームを満たすものであること。および、それらのシステム開発に対して、8年間の法人税の免税(ただし 土地代と運転資金を除く投資額の100%を上限とする)を付与するとしている。
タイ政府は7つのモデル都市を設定
デジタル経済社会省のピチェート・ドロンカウェーロート大臣は次のように語る。「スマートシティーのプロジェクトは、データとIT通信技術の導入を進める考え方から生まれました。インフラの構築とともに進め、生活の質を向上させる通信技術システムを備えさせるものです。また環境への影響を減らすとともに、街で使われるエネルギーを削減し、より便利で住み良いコミュニティーの生活をもたらし、人々の暮らしの質を向上させます。資源の利用の効率化が進み、街のインフラはITシステムの導入で機能的でより緻密に行き渡るようになります。行政の効率も格段に良くなります」。
タイでのスマートシティ建設の基本方針は5項目ある。1モデルタウンの開発、2開発関連法規の改定、3管理メカニズムの創設、4啓発の継続・発展のための研究開発・イノベーション、5ビッグデータとしてのデータ蓄積の奨励。以上はスマートシティ開発の具体化を促すことになるだろう。
「近い将来の中央と地方における大小の都市開発の可能性を見た時に、生活に利便性をもたらす設備が完備した街という斬新な展望が生まれます。インフラおよび関連施設、最新技術とエネルギーの効率的な使用、緑地を生かす環境整備などにより、居住エリア、商業・金融エリア、汚染のない生態的産業エリアなどのエリア別に特徴を持つタウンが形成されるでしょう。各都市とも国家開発計画に沿って作られ、デジタル経済社会省のスマートシティ開発は、政府より委任を受けて堅実に進められる事業になります」。
スマートシティー実現に向けて、将来の居住空間の開発は環境、文化、生活、経済と社会の各方面にデジタル技術の浸透が進められる。行政サービスも含めた各種サービスが効率化し、安全で住み良い生活が保障される。また、生涯学習が進み、活発な社会が生まれる。都市が欲する開発の可能性とニーズが主導する形で進歩する。例えば国際的な事業のハブ、国際レベルの医療健康サービスの結集など、そのままタイランド4.0に向かう主要なメカニズムとなる。
ピチェート大臣は今年のスマートシティーの目標について「すべて、デジタル経済社会省傘下のデジタル経済振興機関(DEPA)に委任しています」と話す。DEPAは7県でのスマートタウン開発による経済発展を推進する機関で、プーケット、チェンマイ、コーンケン、チョンブリ、ラヨーン、チャチュンサオ、バンコクの7県。「デジタル産業の開始、調査、奨励、研究、技術開発に対する支援・助成を行い、デジタル産業関連のインフラの充実を推進します。今年は都市データプラットフォームのプロジェクトをプーケット、チェンマイ、コーンケンの3県で進めますが、連結システムを構築して各部署におけるデータの保険と公表の流れを作ります。例えば警察の犯罪捜査の役に立つ監視カメラ(CCTV)や、自然災害の予報に役立つ環境IoTセンター、各都市を訪れる観光客の動向を分析してロジスティクスの改善に活用するフリーWi-Fiのデータなどの連結です。都市のクラウドシステムに連結すれば、分析結果の情報交換がたやすくできるようになります。データを引くAPIを作り、規格を定めるならば、官民ともに都市のサービス向上に利用できるデータが得られます。同時に行政の長は、リアルタイムで状況を捉えるインテリジェントなシステムを入手することになる。正しい状況判断による指示が可能となるのです」。
各都市の特長、課題に沿った開発計画
3県のうち先頭を切るプーケットでは、観光、安全、環境、経済の4つの方面で進められている。コーンケンではスマートタウン建設推進委員会が設置され、2029年コーンケン・スマートシティー戦略が立てられた。この戦略は予算化を狙って公表され、具体化へと動き出している。重要な点は予算の枠組み、進度表などが明確に示されていること。2029年に向けたこの戦略は輸送、会議と経済(MICE)、医療の3項目が重視されている。
チェンマイではスマート・ニマンヘミンプロジェクトが始まった。チェンマイ県、タイ通信会社(CAT)、DEPAタイ北部局が共同で立ち上げ、3期の計画で進める。1期目はスマートWi-Fi体制をアクセスポイントとともに展開、ニマンヘミンに完備する。2期目は観光の促進が目的としたチェンマイI love Uのアプリケーションの実用。3期目はCCTVの映像分析。県内各地の住民、観光客の動きを把握し、マーケティングのデータに利用する。
またチョンブリ、チャチュンサオ、ラヨーンの東部3県でも、東部経済回廊(EEC)エリアにおけるスマートシティー開発計画ができている。チョンブリでは10本のプラチャーラット・ポールが立つ。持続的な工業団地運営のためのもので、レムチャバン工業団地および行政市に立つ。バンコク都は経験と助言の交換を各部署ごとに進め、スマートシティに関する資金源の掘り起こしにかかる。同時に地域住民のためのデータの交換、サービスの充実を進める。またIoTの導入は各県でも行い、業務を効率化させる。
インフラシステムの輸出に挑む日本政府
昨年7月には日本の横浜市国際局長、タイエネルギー省エネルギー政策計画局長同席のもとアマタナコーン工業団地を対象としたスマートシティ開発促進に関する協力の合意がなされ、今年1月には工業団地大手のアマタコーポレーションが日本のYUSA(Yokohama Urban Solution Alliance)とアマタが保有する工業団地のスマートシティ化に向けたコンサルティング契約を今年1月に結んでいる。YUSAは横浜市内の中小企業で構成される一般社団法人。日本政府としては、こうした新興国などの都市化によるインフラ需要の拡大を見越して、インフラシステム輸出戦略を策定。日本企業、自治体が持つスマートシティを構成する技術の国内外への展開させ、「我が国企業の2020年に約30兆円のインフラシステム受注」を目標としている。ちなみに、2010年のインフラ受注額は約10兆円、2015年は約20兆円だった。
スマートシティの開発はタイだけではなく各国で進められている。ASEAN(東南アジア諸国連合)では、加盟国の首都を含めた各都市でのスマートシティ開発に協力するASEANスマートシティネットワーク(ASCN)が検討されている。ASCNに参加する都市はベトナムのホーチミン、ハノイ、ダナン、インドネシアのジャカルタ、バニュワンギ、マカッサル、カンボジアのプノンペン、バッタンバン、シェムリアップ、タイのバンコク、チョンブリー、プーケット、フィリピンのマニラ、セブ、ダバオ、ブルネイのバンダル・スリ・ブガワン、マレーシアのクアラルンプール、ジョホールバル、クチン、コタキナバル、ミャンマーのヤンゴン、ネピドー、マンダレー、ラオスのビエンチャン、ルアンパバーン、シンガポールの計26都市。各都市では2018年から2025年までのアクションプランを定め、民間との共同開発や域外からの資金調達を目指すという。
そう遠くない将来、東南アジアの各都市を様変わりさせるかもしれない挑戦が始まった。