農業廃棄物から粉炭を製造 日本人父子が0から挑戦

2014年以来、試行錯誤を繰り返しながらタイで大量に出る農業廃棄物を原料に用途が広い粉炭作りに取り組んでいるのは喜多村美孝(きたむら・よしたか)と子息の喜多村昭吾(きたむら・しょうご)氏。美孝氏はホンダの二輪部門のエンジニアとして1988年から6年間半に渡ってバンコク郊外の工場に駐在、帰任後もタイ政府との二輪の排気ガス規制交渉などで頻繁にタイを訪問している内に定年を迎えた。ホンダ時代には二輪の排気ガスを減少させる部署に勤務、地球環境を良くする仕事にやりがいを感じ続けた美孝氏だけに、定年後は環境保護の仕事でタイに役立ちたいと考えていた。そしてタイ初の平窯で高品質な炭を大量に生産できるYAMASEN ASIA R&D LTD.を2014年に設立、ホンダ時代のタイ人パートナーと組んで工場を構えた。その後、軌道に乗るまでの奮闘を、昭吾氏に聞いた。

――美孝氏はなぜ炭に関心を持ったのでしょう?

喜多村昭吾 父はホンダを定年になって数年後から高級車向けの牛の原皮のナメシ(鞣し)で世界最大級のタイの工場のアドバイザーに就任しました。その工場では、塩蔵牛皮の輸入で塩分がしみ込んだパレットの処理に困っていて、炭に加工するなどの再利用・処理の導入調査を華人系の工場オーナーから依頼されたのです。父によればその工場では月2,000から3,000トンもの塩漬けの牛皮を輸入し、ナメシして自動車メーカーに供給しており、月150トンから200トンもの塩分を多く含んだパレットは有料で業者が処理していました。

父がさっそく調査したところ、タイの炭製造の窯(かま)の能力は月10トン程度しかなく、200トンもの塩分が多い使用済みパレットから炭を作れる能力などないことが判明したのです。そこで父は日本に飛んで平炉で粉炭(ふんたん)を製造する島根県の山本粉炭工業を見つけました。そこは山奥の工場で、仙人と呼ばれる経営者が間伐材で月200トンのチップから月40トンの粉炭を製造していたそうです。しかも木材に限らずに原料にはサトウキビ、タピオカ、コーヒーなどの残渣やキャッサバ、トウモロコシなど広い範囲の植物でも粉炭が作れることを学んだ父は「これだ」と直感したそうです。

同社での有料研修を受けた後にタイに戻った父はこの技術でパレット問題が解決できると工場オーナーに説明しました。だがちょうどその頃、タイの自動車購入優遇政策が終了したことを契機にタイの自動車販売が激減していた時代でした。オーナーはパレット処理どころではない状況だとしてプロジェクトの中止を断言したのです。父はコンクリートの炉と鉄の釜を作るだけだから個人の資金でも可能な程度の投資金額で、それでなくても「きつい」「汚い」「危険」の3Kイメージがあるナメシ業界のPRになる良い話、などと説得しましたが、オーナーの決断は変わらなかったそうです。

――お父さんは諦められた?

喜多村昭吾 いいえ。父は島根県で学んだ粉炭づくりのとりこになっていました。そしてタイにはないこの優れた技術をこのまま眠らせたくないと考えて、ナメシ工場のアドバイザーを退職、ホンダの二輪工場勤務時代のタイ人の同僚と組んで合弁会社のYAMASEN(山仙)ASIA R&D LTD(以下、YARD)を2014年に設立しました。工場はバンコクの北80キロ、タイ中部のスパンブリ県に設立、元同僚のタイ人に会社の代表権を与えて営業や交渉事のすべてを一任、父は生産と技術担当のGMという形でスタートしました。元同僚は京都大学を卒業している優秀なタイ人で工場の土地代を無料にすることなどを地主と決めたりして父を喜ばせました。

――パレットの原料の話がなくなり、どのように原料を探しましたか?

喜多村昭吾 工場立ち上げ当時、父の目にとまったのはタイの河川や運河、掘などにホテイアオイ(ホテイ草)が茂って油圧ショベルを導入して取り除いているテレビ報道でした。そしてYARDでも油圧ショベルを借りて大量のホテイ草を川からつかみ上げてトラックを満載にして工場に運び、天日乾燥してから炭にしようと試みました。河川から工場に運びこまれたホテイ草の塊の中に多くのウナギが生息していることを従業員が発見、夕食のオカズになると喜んだそうです。しかし炭の原料としては見事に失敗でした。ホテイ草は考えていたよりも水分保持能力が高かったのです。

その後も様々な材料を試しましたが燃焼が続かず失敗の連続でした。ある日、父と言い争っているとき、「炭とはな。。。」で始まる父の理論展開を制止した私は「燃やすこともできない炭の理論なんか聞きたくない」と怒鳴って父を黙らせました。続けて「一回でいいからすべて自分の考えたやり方でやらせてほしい」と頼み、父から「どうせうまくいくわけがないけど好きにやれ」と言われて全ての主導権をゆだねてもらいました。

ココナッツの外果皮(ヤシ殻)に着目

「簡単に燃えてしまう」という理由から父は使わなかった、ココナッツの外果皮に私は着目し、中身は使用済のゴミのココナッツを集め、火を付けました。ココナッツの外果皮はヘチマと同様に空間の部分がたくさんあり、その空間に熱をため込むことにより簡単には燃えない(灰にならない)と考えたのです。それ以外にもいろいろ工夫を凝らし、それまでは一度に100キロ程度しか取れていなかった炭を2トンも作り出すことに成功できたのです。

最初から過去最高の結果を出した私に対して父は「こんなのもの炭じゃない」と言って認めようとはしませんでした。しかし2回目、3回目も成功させた私のつくり方をようやく認めてくれました。父の炭理論ではタイの気候に合ってなかったことも認めてくれました。それから私のやり方で粉炭を製造するようになりました。

粉炭のサンプル出荷ができるようになった途端、地主の態度が豹変しました。「もう製品ができたのだからすぐに土地代を支払え」と高額な要求を始め、土地代だけでなく利益も分配しろ、などといった言いがかりも増えました。「タイ市場では知られていない当社のような製品の場合、まずは無料サンプルを広く配布しなければ契約につながらない。今は経費が出るばかりのPRの段階だから売上や利益はゼロ。おカネはまだ支払えない」と地主に理解を求めましたが、聞く耳をもたず様々な嫌がらせを受けたうえで最終的には「では出て行ってくれ」と会社設立から1年後に追い出されてしまったのです

――そこで新たな工場をナコンパトム県のナコンチャイシーに建てたのですね。

喜多村昭吾 5ライ(1ライは1,600平方メートル)の土地を2年ほど前に契約しました。今度は地主と賃貸契約書を交わしました。スパンブリではタイ人同士の口約束だけでした。最初は雑木林で、1メートル進むのも大変だった土地を、自前のショベルカーやチェーンソー、草刈り機などを駆使して約半年かけて整備しました。業者に頼めばすぐ終わるが費用がかさむ。自分たちで地道にやれば時間はかかるが節約になると父は考えていました。

ナコンチャイシーを選んだ理由は原料となるヤシの一大産地であるナコンパトムに近く、一番ネックだった輸送費が削減できるためです。15トンのヤシ殻を工場に運んで産炉に入れ、その5分の1の3トンの粉炭を収穫できます。路上に積まれているヤシの外皮を2トントラックに満載しても200バーツ(約700円)程度です。

工場には平炉が3つあります。スパンブリでは炉の上に屋根を付けましたが、屋根がない方が炉の熱の上昇が早いことがわかり、現在の工場では屋根がない設計にしました。穴を掘り1辺1メートル余のコンクリートのブロックを積み重ねて炉を作ります。地面から2メートルの下部には鉄板が敷かれ、その下は30センチの深さで空気の通路となっており煙突に繋がれています。椰子の外皮を入れて上部に火をつけると800度から1,000度の高熱となり、炭が焼きあがると、地下水を大量に浴びせて火を一気に消すことで品質がよい多孔質ポーラスの炭が完成します。現在の炭化率83%は高級炭のレベルです。通常の焚火は下に火をつけ熱を上にあげますが、当社技術では下部に空気口を作り上部に点火した熱源を下部に下ろし内部を蒸し焼き状態にして高品質の炭を作ります。

環境浄化に繋る製品開発を進め、これまでにタイに進出している日系のオーガニック(無農薬有機農法)農園、牧場、イチゴ園や酵素風呂などに納入してきました。消臭、脱臭、除湿剤など向け製造も開始しました。当初は大きいと考えたタイの農家向けに土壌改良剤として10キロ200バーツ(700円足らす)の製品を用意したのですが、農家には高すぎ、サンプル使用時に効果が出たと喜んでくれた農家からも有料注文には結びつきません。

そこで方針を転換し、固ければ固いほど良質と言われてきた炭の常識とは逆に、世界で当社しか作ることができない、小指でつぶせる柔らかさの「YAMASEN炭」の性質を生かした販路が開拓できないかと考えています。

ココナッツの外果皮で作った炭は空気の流れのないところで自ら空気を吸いに行きます。そのため靴の中や冷蔵庫、冷凍庫、浴室、化粧室、自動車の室内で強力に匂いや湿気を吸収します、また化学薬品を一切使っていないので食肉処理場や魚介類加工場など匂いの問題があっても化学系のものは使えない工場で喜ばれると考えています。

私も父と同様にタイの環境向上のために役立ちたいと考えています。その第一歩となるココナッツ外果皮で作る当社の炭を使って製品化していただける業者を探しています。

会社情報

会社名 YAMASEN ASIA R&D LTD.
住所 Supalai Premier-Rachada Tower, 1st Fl., 9/6 Rachadapisek Rd., Chongnonsee, Yannawa, Bangkok 10120
お問い合わせ先 Tel / Fax 0-2163-4017 E-mail:biochar_thailand@yahoo.co.jp
担当者名
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