コロナ明けの市場に積極営業展開 光学コーティングや塩浴軟窒化の用途拡大に注目
表面工学のエキスパート集団「HEFグループ」(本部フランス)がタイ市場で営業強化に力を入れている。新型コロナウイルスの収束を受け、取引先との往来も可能となった。タイで導入の進む電気自動車(EV)の注目度も高まっている。ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油高などから国際市場も大きく変化した。「多様なニーズが膨らんでいく中で、一つ一つを丁寧に拾い上げていく一年になりそうだ」と語るのは、タイ法人「TechniquesSurfaces (Thailand) Ltd.」のSales Managerの阿部 文俊氏。その最前線の様子について話を聞いた。
■ 光学製品加工企業を相次ぎ
グループ化
このところのEV生産や運転自動化などへの期待が増すタイで、HEFグループが大きな可能性を感じている一つに、部品などの表面に施す光学系コーティング処理がある。例えば、自動車に搭載する光センサーカバーへのコーティング。車の安全は、止まる、曲がる、走るの各制御が十分となって初めて実現する。EVを中心に自動運行システムが普及するようになった今、これらに必要な情報の多くは車に搭載された光センサーがその収集に当たっている。
車間距離を測定するための車載レーザーでは特定の波長の光を照射し、周囲を走行する被照射車両などで反射、不要な波長の光と一緒にセンサーへ戻ってくる。そのためHEFグループでは特定の波長のみを透過させることができる光学系コーティングをセンサー内に組み込まれている光学フィルター部品に施すことができる。
同社グループが得意とする物理蒸着(PVD)の技術は、金属だけでなく硬質ゴムや硬質プラスチックなどの表面に対しても均一に薄膜を蒸着させることができる。これにより、センサーカバーなど被蒸着物の表面には、薄いフィルターの膜がコーティングされることになる。そこに達した光のある波長は反射をし、他の波長は放射、或いは透過する。こうして、むらなく必要な情報だけを得ることができるようになる。
今やセンサーはあらゆる工業製品に搭載されている。自動車にとどまらず、家電、医療、軍事などさまざまな場面で今後、同様の光学コーティングが求められていくことは確実だ。
こうした光学加工のニーズを先取りする形で、同社グループでは2020年12月以降、アメリカやフランスで相次ぎ企業買収も進めている。これまでに傘下入りしたのは、いずれもこの分野に特化した専門企業計6社。今後も必要に応じてグループ化への検討を重ねていく方針だ。一方、タイ工場内にはPVD成膜装置の大中2台が設置されている。欧州・日本・タイと生産拠点を複数持つことで機動的なオーダーメイド発注にも対応していく。
■メッキ市場に参入する
塩浴軟窒化処理
HEFグループが注目するもう一つの情勢変化に、表面処理市場の動きがある。自動車部品などの表面処理加工をめぐっては、これまでニッケルやクロムを使用した安価なメッキ処理が市場の主流だった。ところが、ウクライナ危機に端を発した各種資源の世界的な高騰の結果、価格の面で開きがあった塩浴軟窒化処理と変わらぬところまでコストが上昇してしまった。
「ARCOR(アルコア)」や「タフトライド」といった登録商標を持つ同社グループの塩浴軟窒化処理は、被処理物の表面に数十ミクロンといった極めて薄い窒化膜を形成させる技術。摂氏600度に近い塩浴(ソルトバス)に浸すことで、見違えるほどに堅牢性は増し、耐久性も格段に向上する。ただ、一般的なメッキ処理に比べて費用がやや高価なことから、これまでは使用目的や用途に応じた棲み分けが行われていた。
そこへ起こったのがニッケル・クロム素材の価格高騰だった。これにより塩浴軟窒化処理がメッキの既存市場に参入できる余地が大きく広がってきている。変わらぬ費用負担で優れた低フリクション性能、高い耐摩耗性・耐腐食性が得られるとあれば、ユーザー側も検討しないはずがない。しかも、環境負荷の大きいクロムなどの使用をめぐっては、地球環境保護の観点から他の処理への転換が求められている状況だ。予想もしなかった置き換え需要。この好機をどうして狙わないことがあろうか。
■ 東南アジア市場に注目
最後に、HEFグループが熱い視線を注ぐ先に拡大を続ける東南アジア市場がある。新型コロナの収束によって再び注目を集めているのが今後も人口増が続くこうしたマーケットだ。間もなく3億人に届こうかというインドネシア、1億人突破目前のベトナム、そしてタイの隣国マレーシア。購買力の高い新興国を中心に、今後も自動車などのニーズは高まっていくものと予想されている。
欧米やタイなどと同様にこれらの国々でも今後、EV導入は進行していくと見られている。しかし、巨額の費用負担を伴うことから、当面は内燃機関を備えたガソリン車が中心となって段階的に進むとの見方が支配的だ。こうした過渡期にあって活躍できるのが、これまで手掛けてきた燃費効率を高めるための表面処理加工というわけだ。
独自に開発した「DLCコーティング」技術は、エンジン部品などにダイヤモンドの硬度に近いカーボン膜をコーティングするというものだ。この結果、内燃機関内の低フリクションが実現、エネルギー燃焼効率は格段に上昇する。ガソリンなど燃料発熱量の半分も利用できていないのが現実の中で、わずかな燃焼効率の改善だけでもそこから得られるものは大きい。
東南アジア市場のテコ入れに、同社グループではフランス人ビジネスコーディネーターを本社からタイに駐在させ、事業の拡大に力を入れる。赴任したのはミシェル・ペルター氏。「今後の成長はアセアンにかかっている」と意欲を示している。
このほかHEFグループでは、レーザー光線を使った表面処理(フェムト秒レーザー処理)やパウダーコーティングの用途拡大についても検討を進めている。前者は、対象素材の表面に5~50ミクロンほどの幾何学模様の窪みをパターン化、表面改質を行う。金属のほか布や木材などへの加工も可能だ。後者は、最小で500nmほどの特殊配合パウダーで表面処理を行うことにより、電磁波遮蔽、耐腐食性向上、低フリクション化などの効果が得られる。いずれも、新たな産業などへの応用が期待されている。
2023年3月1日掲載
会社情報
会社名 | Techniques Surfaces (Thailand) Ltd. (HEF Group) |
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住所 | 700/15 Moo 6, Amata City Chonburi Industrial Estate, T. Nong Mai Daeng, A. Muang Chonburi, Chonburi 20000, Thailand |
お問い合わせ先 | TEL +66 (0)38-213-818 FAX +66 (0)38-213-789 https://www.hefthai.com/ |
担当者名 | 阿部 文俊 (JP/EN): fabe@hef.group +66 (0)80-252-2898 Chirapan Wongsamart (TH): wchirapan@hef.group +66 (0)83-835-0845 |