泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第70回『タイの長期展望と日系企業のビジネス』

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。本号では、前号に続き元タイ中央銀行総裁のタリサーさんの講演内容要約です。前号での1.世界の成長を牽引するアジア‐6つの特長と、2.タイでのビジネスチャンス‐短期展望に続くものです。なおJセミナーは年2回:6・11月に開催します。皆様のご参加をお待ちしています。

3. タイでのビジネスチャンス-長期展望(タイランド4.0 とタイ東部経済回廊 (EEC) )

  • 発展し、かつバランスの取れた国になることを目的として、次世代のインフラ、先進的・革新的な産業、より良い人々の生活を目指し、新しい法案と制度の制定を準備するタイ政府の20年目標である。骨格は以下通り。
  • 8年で2兆バーツを超えるインフラ投資=5つの計画:
    1. 水路網開発:港湾開発、水路の効率改善と堤防の整備
    2高速道路網開発:農村地域、観光地域へのアクセス改善、都市と生産拠点をつなげるネットワーク、国際輸送ネットワーク、多チャンネル輸送システムにつながる道路施設改良
    タイの空輸競争力の強化:空港の効率改善、空の交通の効率を世界基準に合うよう改善、航空機の効率向上 、航空機産業団地の設立 、民間航空のための建物建設
    4. 都市間鉄道網の開発:設備とインフラの改善、複線軌道の開発
    5. バンコクと近隣地域の交通開発:10の電車路線、3,183台のNGV(天然ガス自動車)バスの購入と駐車場の改良、バンコクと近隣地域の交通網と橋の開発
  • 新しい法案と制度の制定(BOT=タイ中央銀行は、外国為替規則の規制改革を次のように開始):ビジネスのやりやすさを強化するため、BOTの定めた規制を今後見直していくための第一歩で、明快さと透明性を向上し、冗長性を減少させるための改定で、次の例をご参照:

・民間部門が、BOTの設定した枠組みの中でリスク管理・方針管理し、外国為替取引と外国為替ヘッジをしていくことを許可する。

・BOTが特定の外国為替取引を事前承認するに当たり、手続き簡素化、ペーパーレス化、必要条件を撤廃する。そして市場への新規参入を許可し、効率性・柔軟性を向上させる電子取引を奨励するにあたり、地域の接続性を促進する地域通貨の使用を緩和させる。

  • 東部経済回廊(EEC:タイランド0のメインエンジン。EECは、4中核地域、15プロジェクト、5最優先プロジェクトからなる。最初の5年間で1.5兆バーツ(430億USドル)を政府・民間より投資する(3つの飛行場、3つの深海港と高速鉄道、新産業や医療産業などをつくる)計画。
  • この計画の目的は、東部3県にまたがるイースタン・シーボードの高度化にある。特に、新たなインフラ投資の着手、投資家への優遇措置、煩雑な手続きの簡素化により、ターゲットとなる産業の利便性を図る。投資誘致のために、国営企業によるいくつかのプロジェクトが始動しており、続いて2018年後期にPPP(官民提携)活動が期待されている。 法人税減免などの優遇措置については、EEC法案が国民立法議会の第一読会により承認され、2017年末の施行までに60日間の綿密な審査が委員会によってなされる。
  • EEC地域には、160のプロジェクトへの投資が奨励され、世界のグローバル企業が名乗りを上げている。
  1. タイの日系企業ビジネスの状況
    (ジェトロ (JETRO) の調査結果に基づく)
  • 1985年プラザ合意(為替変動制で1ドル85円の時代)後のビジネス再配置で、日本企業のタイ進出が加速される一方、タイは投資歓迎でウィン・ウィンの関係ができる。
  • 5,444社の日系企業と約10万人の日本人(居住者と駐在員)がタイに居住。日本人学校は国内以外では最大規模で日系ビジネスコミュニティができる。
  • タイは日本人にとってなじみが深く、快適に事業を続けていくことができる土地。
  • ジェトロの「2017年上期タイ日系企業景気動向調査」によれば、景況感は5期連続で改善幅が拡大し、今後さらに拡大する見通しと予測、特に設備の投資増を見込む企業は、前回の30%から44%となった。
  • EECへの計画・関心も39%が積極的。

 

  1. 質疑応答
  2. タイ経済は、数カ月は好調と理解したが、通貨危機時は行き過ぎだったかどうか?
    ➡景気は1997年時と今の環境を比べると、より弾力性がある。また以下の理由

    • 固定相場から変動相場になった。つまり弾力性が導入され、今は全然違う環境になった。
    • 外貨プールは1700-1800億US$あり、総輸入価額と同じなら良い中で、何倍以上ストックの状態。
    • 当時、海外からの借り入れは、短期80%で不安定な状況であったが、今短期20%、長期80%の状態。また短期借入額も高い額でなく、通貨準備も弾力性がある。
    • 金融機関も努力、改善している。2008-9年のリーマンショック時も、タイの金融機関、企業も弾力性があり、借入れは、資本金7-8倍から、今1-2倍になった。また私自身SCGの取締役になり、企業の数字、リスクマネジメントにより注目し、慎重に対応しているのが分かる。
    • タイだけでなく各国の成長が望ましいが、成長と安定に注目する必要がある。
  3. EECのインフラ投資の資金調達をPPP (公民連携分担) で賄うことについて
    ➡ 資金調達は、中央銀行の直接責任でなく、NESDB (タイ国経済社会開発委員会) や財務省が関わり、中央銀行は長期の投資再生に関わる。財務省の規律も良い。政府の負債は、GDPの50%以下にしたい。今66%は、健全かどうか?8兆バーツを8年に分けて処置する一方、経済の諸事情を見て調整。PPPも、回収、運営の考慮点。経常収支の課題や、通貨準備もかなりあるが、全体として国のランキングに影響する。
  4. 通貨準備と為替制度について
    ➡今、為替は、固定相場から変動相場になり、輸出入で投資者にとってバーツ/外資が入ってきやすく、調整はあまり要らない。外貨は1700億ドル持っている。たくさん持つと損する場合がある。バーツが高くなると問題で、1$の損で、影響が大きく、国民に報告は大変になり、タイ、マレーシアはあまり持たない状況。

編者 吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

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