泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

77回『どうなるタイの政治と民主主義』 

タイでは本年2月24日に民政復帰に向けた総選挙が行われる予定でしたが、ワチラロンコン国王戴冠式が5月初旬に行われることが発表され、国会開会時期との関係から、総選挙は3月10日か下旬に延期される見通しになりました。本稿はバンディットTNI学長による、昨年11月のJセミナーでの講演を要約したものです。刻々と変わる政治状況の中で、数字のずれがあるかも知れませんが、日本人が関わるタイの政治と背景を理解するのに大変意味があると、ご紹介する次第です。 2014年5月暫定軍事政権になって5年近くになりますが、謳い文句であった特権・金権・汚職排除などの功罪、経済と生活への影響、アセアン・中国・米国などとの関係、民政復帰と持続的民主主義への展望について、分かりやすく解説します。なお、タイ政治が中心ですが、その背景として、タイ社会の特徴と、タイの民主主義に触れ、また経済状況他、関係国との関係、政府のやるべきこともコメントしてもらいます。

編者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

 

1.タイ社会の特徴

  • 農民国:第1の特徴で、今でも4割は農業従事だが、過半が工員などの副業を持つ。
  • 多民族の国:近代タイ国として百数十年の歴史だが、以前はチェンマイや、東北部、南部は別の国であり、ミャンマー少数民族やラオスやベトナム民族出身者もいる。
  • 王政の歴史が長い:王政がずっと続いているが、多民族統治のため中央集権を強くする必要があった。
  • 人が優しい:聞こえが良い言葉だが、朗らかな一方、厳しくなく、仕事上、カイゼンを徹底する時は物足りなさもある。
  • 権力・権威・特権の社会:中央の支配者がまとめた弊害的な面。
  • 支配者(階層)の責任感が低い:日本のサムライ時代の倫理観と違う。
  1. タイの民主主義
  • 1932年に絶対王政から立憲君主制に:90年近い歴史だが、官僚、軍部が主体で、本当の国民は少なく、国民が団結して得たわけではない。良い面は、多様性があること。
  • 総選挙が27回、クーデタ成功が13回(未遂11回)。
  • 2017年成立した憲法は20本目:平均4年余りの寿命。
  • 最近のクーデタが発生した年は1977年、1991年、2006年、2014年:この間の間隔は、4年、15年、8年。
  • 最近の3回はすべて民政政権の大規模汚職に起因する:国民はしょうがないと追認。

3.暫定政権の評価➡実績

  • 東部経済回廊(EEC)の政策を打ち出し、5月に東部経済回廊特別法が施行された(法人・個人税の優遇、土地所有権):外国人の技術・研究者を呼び込むために最大所得税率を17%とタイ人よりやや低い。人材育成はうまくいっていない証拠。
  •  タンマガーイ寺院の違法行為を制した:パトンターニー地区にあり、「寄付すれば、より高い天国に行ける」の主張で数十万人の信者を集め、今まで規制されなかった。
  • 公務員の標準作業票の作成と公示を義務付ける法律を制定し、良い評価を受けた。
  • 王位の継承がスムーズに行われた:タイ社会は成熟し、平静であった。
  • 憲法をはじめ民主政を復活するのに必要とする法律を制定した:しかし時間はかなりかかった。

3‐2.暫定政権の評価➡不満

  • 経済成長率は高くなっても貧困層は実感しない
  • 汚職はまだ多い:政権内でも、減っていない事例がある。
  • 貧困層の支援バウチャーは使いにくい:月数百バーツで、特定の店しか利用できない。
  • 公約した警察、行政、政治、教育などの改革はほとんど進まない:自分たちの権威を減らすことになり、結局描いた絵の状態でやらない。
  • 総選挙の日程(ロードマップ)を何回も遅らせた:現状は2019年2月末になっている。(➡3月に再変更)
  • 政党の活動を選挙の3カ月間前まで許さないため総選挙の準備時間が足りない:この90日間は、暫定政権が自分たちに有利になる。

4.各政党の準備と作戦

  • 現憲法と選挙法では有権者の投票を全部無駄なく考慮する理念の下で全国区の議員の割り当てはその党の得た票を全部考慮する:前憲法では、小選挙区と全国区各1枚別々に選べてプアタイ党に有利であった。今まである党が10万票とっても国政に参加できないこともあり、今回は両区で1票のみで効率的で考え方としては良い。
  • 有権者は 5,000 万人で投票率が70%と想定すると 3,500 万票が投票される。これを総議員数500で割って分配するので各党は7万票を集めると(小選挙区で1議席も取れない場合)、必ず全国区の枠で1議席が与えられることになる:これは結果的にプアタイ党に不利になる。

(1)プアタイ党(タイ貢献党)は小選挙区の獲得議員数が得票率と対等かやや上回るため、全国区の当選者が出ない可能性がある。そのために付属党を作って当選されない選挙区から票を集める予定。

(2)民主党は党首の選出で党員に投票権を与えて本当の民衆の政党だと訴えている。首相の選出は政党指名者以外の候補を支持しない(=政党指名者でない候補に反対):これまで2百数十万人の党員は、今回数十万人の党になり、党の首相指名者はアピシット党首のほかにチュアン元首相の案も出ている

(3)暫定政権が新設したパランプラチャラット党(Phalang Pracharat Party人民の国家党)は有望な元議員を集め、第一か第二の政党を狙う➡可能性が薄い:百近くの議員を集めたいが、今の状況は厳しい状況。プラユット党首の可能性もある。

(4)プームジャイタイ党(Bhumjaithai Partyタイ誇り党)は議員数を増やして選挙後の連立政権の中核に昇格する➡どちらが勝っても組閣に参加する。

(5)ルアムパランプラチャチャートタイ党(Action Coalition for Thailand Partyタイ団結国家開発党)は反タクシン体制をとる:2013年タイ反政府デモのステープ氏が率いている。

(6)アナコットマイ党(Future Forward Party新希望党)は行政改革、憲法改定などを主張:サミットグループのタナユット氏が新たな有権者になる若者層など3百数十万人に呼びかけている。

  • 残りの党は20議席以下

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