タカハシ社長の南国奮闘録

第86話 マインドイノベーション

ダーウィンの進化論では、強い動物や大きな動物が生き残るのではなく、環境にあわせ変化していける動物のみが長きに渡り繁栄するとされている。

経営においても同じで、変化・革新を起こし、イノベーションをすることが会社の成長に繋がると私は思う。マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッガーは、会社を成長させるための最重要イノベーションは何かと聞かれた時、すかさずマインドイノベーションだと答えたそうだ。

マインドイノベーションとは社長自らが成長・進歩・革新すること。1つの事業戦略を完成させるには10年ほどの月日がかかる。必要な時期に新たな手を打っておかないと、10年後には陳腐化して今稼ぎ出している方程式は機能しなくなり、30年もすると不採算事業に陥る。

仮に30年間、社長を務めたとしても3回のチャンスしかないと考えていい。しかも時代によって信用も資金力も環境も変化し、打てる手も異なる。だから最大限にジャッジの精度を上げる必要がある。

今年で創業108年目を迎えたテクニアも、時代の変わり目にイノベーションを行ってきたから今存在している。明治時代、御料馬車職人であった創業者富吉が馬車事業の衰退をいち早く見抜き、一大決心して東京から名古屋に移住して自転車部品の製造を始めた。これがテクニアのイノベーションの原点だ。まだ自動車のない時代、自転車は市民の足を支え、成長産業になっていったに違いない。

創業から部品作りという本業を貫いているが、現在はプロセスイノベーション、プロダクトイノベーションを経て、以前とは全く違う加工機械、加工方法であらゆる精密機械の部品を製造している。

経営手法、経営のあり方、社長の役割は、時代と環境、そして自分の器に合わせて変えていけばいいのだ。

30代の私は我武者羅、率先垂範、現場改善により収益性を高めることに注力した。同時に、技能者の教育事業とタイ工場の設立、さらに航空機産業に進出して新しい種をまいた。そして40代になり、リーマンショックで得た教訓から海外シェアを拡げ、工場の現場力のイノベーションを行った。

こうして今までしてきたことが50代前半にある程度の結果を生み、後半には成熟できると嬉しい。現在は単一工程からの脱却と、海外人材の教育のあり方をテーマに戦略づくりを行なっている。

とはいえ、一番のイノベーションは、社長の仕事を人に任せられるようになったことだ。私の社長経験は、今の会社規模で培ったものでしかない。今以上の規模にするには、外に出て経験を積むしかない。しかし、私には外で経験を積む余裕と時間がない。そのことは自分が一番よくわかっている。よって残る手段は、そうした素地を積んできた方の力を借りることだ。

ここまではなんとか会社を率いてきたが、これから先は経験値も実績もあり、年齢的にも人を指導できる人がテクニアを牽引し、マネジメントを行なったほうが会社は間違いなく成長する。私のマインドイノベーションが会社のマインドイノベーションとなるのだ。

このような体制になって半年近くになる。会社は確実に成長して、取引先も徐々に増え、製造現場も管理手法も組織体も以前に比べて活発に脈動し始めている。

この次の大きなマインドイノベーションを目指して、もっと大きな器になる。そして、会社の成長に寄与できるリーダーであるために、さらなる行動をし続けることがこれからの私の目標だ。

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