泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第78回『タイの政治と民主主義』 

タイでは3月24日に民政復帰に向けた総選挙が行われることになりましたが、選挙結果に基づいた国会開会と首相任命は6月初めから中旬になりそうです。

今後のタイムラインは、次のようになります:立候補者受付・各政党の首相候補者リスト提出:2月4~8日。上院議員250人の選出完了:3月末(*新憲法で5年間は上院を含めた総議員数750人の過半数が与党と首相を決定する。5年後は下院=衆議院のみが議決する元の方式に戻る)。総選挙投票日(小選挙区350人+大選挙区150人):3月24日。NCPO (国家平和秩序維持評議会) が上院議員250人のリストを国王に提出:4月28日。国王戴冠式:5月4~6日(3日間)。選挙管理委員会による選挙結果発表の期限:5月24日。国会開会・上院及び下院議長任命・新首相任命・新政権発足・現政権及びNCPO解散:5月末~6月19日。ASEANサミット(タイが議長国):6月22~23日。なお、2月7日時点での立候補状況は次の通りです:民主党341人、パランプラチャラット党335人、アナコットマイ党330人、プームジャイタイ党325人、ルアムパランプラチャチャートタイ党310人+少数政党=67党合計7,552人。(東北部では、一選挙区に29人が立候補する激戦区があります)。なお首相候補者は13人です。

本稿は前号に続き、バンディットTNI学長のJセミナーでの講演を要約したものです。我々日本人が関わるタイの政治と背景を理解するのに大変意味があると、ご紹介する次第です。なお前号での1.タイ社会の特徴、2.タイの民主主義、3.暫定政権の評価(実績と不満)、4.各政党の準備と作戦を合わせて読んでいただくと、より本質的な理解につながると考えます。

5.総選挙後の成り行き

  • 総選挙の各党の予測議員数➡プアタイ党200議席前後、民主党100~120前後、パランプラチャラット党60~100前後、プームジャイタイ党60前後、アナコットマイ党30前後、ルアムパランプラチャチャートタイ党20前後:予測は今毎日変わる状況で、最大の2党とも、組閣する数には足りなく、連立政権になる可能性が大。
  • 現首相は上院議員250議席の支持はあっても衆院議員250議席以上の支持がないと不安定な政治運営になる
  • 最近の調査結果(NIDA選挙予報2019年1月20日):「一番首相になってほしい」という質問に対して、プラユット現首相26.2%、スダーラット氏22.4%、アピシット元首相11.6%、タナドーン氏9.6%。

5‐2.  流動要素

  • 3つの可能性:プアタイ党(タイ貢献党)・民主党・パランプラチャラット党(現政権党)の3大政党が、いずれも過半を獲得する可能性は低く、この3者の連立与党の可能性が高い=①民主党とパランプラチャラット党、②プアタイ党とプランプラチャラット党、③プアタイ党と民主党
  • 現政権のパランプラチャラット党が80議席以上を確保した場合、少数政党を糾合し、民主党と連立を組む可能性がある。政権としてはこれまでの政策を続けられるので安定する見込み。
  • プアタイ党は、タイラクサーチャート党と協力し270~280取ると、上院議員100人位を含め(期待できない)、750の過半数の375を取る可能性が出てくるが、実際は200~250の可能性が強く、民主党もしくは現政権のプランプラチャラット党と連立の可能性が出てくる。しかし、これまでの対立党同士ということで、実際の政権運営は難しくなる。
  • 選挙結果によって反軍部政党が300/500議席以上で大勝した場合、民政政権になる可能性がある➡民主党の支持を必要とする場合は、民主党の代表が首相もしくは議長になる可能性がある(プラユット暫定首相派が過半数でないが、200を超える場合、また1980年ごろのプレーム首相時代と同様、自分の議員は一人もいず、さらに反軍部政党から与党に鞍替えする議員の可能性もある)。
  • プアタイの付属党の争い➡赤シャツの一部が自分の代表を全国区に当選させたい。さらに11月7日にタイラクサーチャート党 (国家守り党) を付属党にした。

6. 持続的な民主主義の展望

  • 選挙結果の如何にかかわらず、政治家が前回のような騒動を起こさない限りクーデタは起こりにくい。
  • 汚職を防ぐために、現憲法の下で閣僚、官僚(副局長以上)、公社の理事は資産表を作成し、所定の機関に提出する義務がつけられている。
  • 言論の自由はソシャルメディアの普及などで状況はよくなる。
  • 11方面の改革法に沿うことを実施することが義務づけられているため、ある程度国民の生活水準を高めることが期待できる。

7.経済状況

  • 2018年に入って、自動車など製造業が回復している。
  • 輸出は平均8.1%の成長だが9月は減少した(やや不安な要素)。
  • 観光業の成長は中国の観光客が予想通りに増えないため鈍っている。
  • EECやインフラ整備の実施が遅れている:高速列車の入札は遅れてやっと終わったばかり。
  • GDPの成長は4.3~4.4%程度にとどまる。

8.中国・米国・アセアンなどとの関係

  • 中国の影響力は貿易、投資、軍事面で増えている:貿易面では1位中国、2位北米(米・加)、3位日本の順。
  • 米国はタイの軍部政権を批判している。タイの軍部への支援と共同演習はしているが、冷戦時代から規模は相当縮小している。逆にタイの軍部は中国に近寄っている:電気自動車などでもタイに中国が入りつつあり、中国の影響が強くなっている。
  • アセアンは国内政治に関与しないという取り決めがあるため他の加盟国に批判的な意見を出さない。貿易面ではアセアンが一番大きい市場になった(中国と米国の合計よりもやや高い)。

9.政府のやるべきこと

  • 人材育成を強化すること➡タイランド4.0強化の方向で、デジタル化を加速、政府の私立支援が弱かった。
  • 産官学連携を強化すること➡研究開発、イノベーション。
  • 中小企業支援を強化する。
  • 製造業やビジネスの営業に負担になる規定を改定すること:アンダーテーブルをやめ、外部業者の委託を増やす。EECのみ絵が描けている状態。
  • 農村部の自立・持続を強化する:現暫定政権の弱いところで、課題。
  • 行政、警察、教育などの改革を至急行うこと。

 

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