泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第89回 『新年会に思う』

タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。2019年12月末に、この原稿を書いていますが、TNIでは、ちょうど「新年会」をしたばかりです。これが発行される2月1日に新年会は古いかも知れませんし、またタイの習慣とは違うかも知れませんが、2019年を回顧しながら、TNIの今後を少し展望させていただきます。  2019年は令和元年で、私たちの環境は、変化の年と位置づけられそうです。ラーマ10世(ワチラロンコン国王)と日本の今上天皇が即位され、タイの総選挙が行われる一方、PM2.5も常態化しつつあります。この新内閣下、大学の所管官庁も、これまでの教育省から、高等教育・科学・研究・イノベーション省 (MHESI)になりました。TNIもタイの産業高度化とイノベーションを担う役割が増えつつあります。
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

TNIの2019回顧と今後の展望

1. 新校舎:TNI5番目のE棟が完成し、図書館などは2019年初めに移転した。新たにA棟にコワーキングスペースを設けた。

2. 在学生数:2018年の卒業生は1000人を初めて超えた。しかし少子高齢化で学生人口が減少する中、国公立の入学緩和で、5大私立大学もこれまでの3-4割減の入学生数になり、一方TNIは1割減で1000人ぐらいの状況。4000人規模の在学生を当面維持したい。教職員は300人強。

3. TNI存在意義:上記の環境下、政府助成金のないタイ私立大学は危機で廃学や規模縮小の中、TNIは存在意義(アイデンティテイ)を日本企業文化の革新性と位置づけ、さらに日本企業との産学連携を推進:日本でのインターンシップ・日本留学・産官学協力によるものづくりエンジニア教育、教員の日本のノウハウ強化、Sler養成など。

4. 150人を超える日本で働く卒業生や進学大学院生のフォロー:写真は、静岡県清水市で2019年10月に集まってもらったTNI卒業生、会社の方との写真。

5. インターンシップ:高等教育・科学技術省はWIL(Work Integrated Learning)を重要視し、2019年から国立大学が始めているが、TNIは先駆的大学で、日本実施を含む400社以上との産学協力を推進。

6. TNIの5年計画の推進 【親機関のTPA(泰日経済技術振興協会)と協同】

(1) Eラーニングプラットフォーム‐ムックの導入と推進: 従来の工業経営学(IM)コースをManagement of Innovative Manufacturing Technologyとして学位を学外でも取れるように変更。また学内で基礎科目の補講・拡充を狙い、微積分や英語・日本語学習できるようにした。また座学・実習をモジュラー形式で学ぶ体制を整えつつある。

(2) COE (研究開発拠点) の設置と推進

① TQMと②TPM:ものづくり研究センターを中心にTPS (トヨタ生産システム) コースを年間7-8回実施。繊維工場のIoTやモーター整備などの協力も実施。また従来のソフトウエア会社でできない、TPS(Lean Mfg.)ソフトウエアを開発(生産プロセス・結果表示の「見えるか促進」など10社ぐらいが設置予定)。

③ 人工知能システム統合センター:2017年以来年間20社ぐらいに協力、7人の研究員が企業サービス・コンサルを実施。

④ データサイエンスとアナリティクス:2018年後半からビッグデータを使い、専門家や各社で利用可能なプラットフォームやモジュールを開発。例えば沢山の研究テーマを商業的に有望な研究テーマに絞り込むような準備が可能になる。この分野の修士課程学習者も増えつつある。

(3) 技術移転センター設置と推進=TARII (工場自働化、ロボットシステム、製品設計と開発、デジタル化技術の推進、SIer養成など) :2018年からTPAがタイ日関係者のコンソーシアムを結成、TNIは人材育成で工場の専門家養成訓練を計画中。SIer養成では、2週間の日本研修後、日本人の専門家指導を受けて、1年かけて専門家を目指す。

(4) スタートアップ・インキュベーション協力:2018年は500人の学生が学部横断の20チームを組んで、各地・全国のスタートアップ大会に参加。2019年は200人・15チームが参加。TNIでは、優秀チームにスタートアップ支援基金を準備し、事業化に協力。また現在、中高生対象の「数学ロボット」を日本から導入し、数学人材を育成しつつある。2020年は日・タイ経済協力協会(JTECS)と協力し、日タイ共創プラットフォーム構想とスタートアップミッションプログラムを推進する。

(5) タイ近隣諸国への事業:トレーナーズトレーニング(TPA)、国際コース推進(TNI)

7.国際協力:2018年開始の英語で実施の3コース(デジタル工学、データサイエンス・解析学、国際ビジネス経営学)は、近隣諸国や日本人も入学し、3年目。また日本他、提携大学などは70近くなる。

8. 日系企業就職推進(特に日本での就職)、語学(英語と日本語)の充実:TNIの学生は、学んだ環境から日系企業就職を望んでおり、いま日本から直接採用したい企業が増えつつあり、英語TOEIC検定や日本語試験を充実、インターンシップ・ジョブフェアなどの機会提供で対応。

20年1月1日掲載

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