タカハシ社長の南国奮闘録

第116話 ものづくり新時代

ものづくり産業は本当に必要なのか。日本はすでにものづくり大国ではなくなった。1983年をピークに町工場は減り続けている。実際、私の家の近所でも工場が姿を消し、跡地には戸建て住宅が建ち並んでいる。

なぜ町工場が減っているのか、理由は大きく分けて3つある。一つ目は、中小零細企業の製造業は儲からないため。二つ目は、職人が激減しているため。そして三つ目は、最先端ではなくなっているためだ。儲からなくなった産業を後継者に継がせたいと思うだろうか。余力があるうちに廃業を選ぶのが普通だろう。

リーマンショック以降、町工場で働こうという若者が減っているのは、先の見えない産業に未来を見い出せないからだ。その結果、日本は外国人技能実習制度に頼らざるを得なくなった。しかし、その外国人たちは実習期間が終われば祖国に帰る。このまま生産量が減り続けば採用の必要性もなくなり、10年後にはごっそり人のいない状態になる。そして機械の更新は途絶え、DXとかインダストリー4.0とかに飛びつきながら老朽化した生産設備で凌いでいるうちに時代に取り残されていく。10年後の日本のものづくり産業は、メーカー生産も海外シフトするしかなくなるかもしれない。そうなれば、産業によってはタイでの生産サプライチェーンは今以上に生きてくるだろう。

日本国内のものづくりは大きな危機を迎えている。電気自動車のサプライチェーンが出来上がっている中国から圧倒的に安価な電気自動車が入ってきたら、日本の生産品を選ぶだろうか。日本製の切れ味が良く安全なハサミではなく、100均の中国製ハサミが選ばれている現状を見れば一目瞭然だ。同じ流れになると日本のものづくり産業は大きなダメージを受け、町工場どころか産業自体がなくなる。

特に自動車産業の集積地である中部エリアの将来は考えるのも怖くなる。これは製造業だけの話ではなく、そこに携わる全ての人々の生活、家族、暮らしに関わる問題だ。脅しではなく、誰もが容易に想定できる事実である。対策としては、第一次産業のように国から助成金を貰いながら生きながらえるか、自律分散型のものづくり強国になるか、道は二つに一つだ。

私は今、経営実践研究会に所属し、ものづくり産業研究委員会の委員長として日本全国から会員を募り研究を始めている。2025年には中小企業の仲間を1万社集める計画だ。そして行政やメーカーとタッグを組み、日本で世界に役立つ新たなものづくり産業を生み出し、日本経済の未来を持続可能な世界にしていく。それが今の私が持ち得る最大限の志だ。

発足してわずか1ヶ月で、その志に共感したものづくりの志士が100社以上集まった。今後はテーマに応じてプロジェクト化を進めていく。会員の中でも新しいビジネスが立ち上がり、廃棄物の社会課題や新技術へのチャレンジ、次世代教育、障害者就労支援などたくさんのプロジェクトが動き出している。オンラインの発達で海外からの参加も可能になった。もちろんタイからも参加可能だ。今後しばらくは日本国内で、ものづくり産業を通じて共感資本社会を構築するための発信をしていく。新しいものづくりの時代に向けた大改革は始まっている。

2022年1月1日掲載

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