泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第108回 『日本語学習を全学生になぜ課すか』

タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。

新年おめでとうございます。コロナ禍で閉塞的なニュースが続きますが、2021年11月3日、秋の叙勲が発令され、「日-タイの教育及び産学協力のキープレーヤとして長年貢献された」として、バンディット・ローッアラヤノン前TNI学長の旭日中綬章受章が報じられました。TNIにとっても大変良いニュースで、皆様と喜びを共有させていただきます。(写真は、ご自宅への祝賀訪問)。

本号では、TNIの日本語学習に焦点を当てます。TNIでは、英語で実施する国際プログラムも含めて、全学生に英語と日本語を課しています。日本語および英語でのコミュニケーション能力を有する学生を育成すると共に、日本のモノづくりに直結する実務かつ実践的な技術と知識を兼ね備えた学生を育成することは、TNIの学生に課す二大目標です。日本語学習は3年生前期までが必須で、あとは普通選択科目になります。TNI語学・教養課程部が担当し、日本語教員は日本人講師を含めて、およそ30人います。

筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

日本語学習を全学生に課す意味

日本語は第1に日本のモノづくりを理解する大きな手がかりであること、第2に日系企業就職に重要なツールでもあります。特にカイゼン、ホウレンソウ、五ゲン主義など、単純に他の言語に翻訳できず、その背景、文化環境を理解してもらう必要があります。さらに最近の日系企業のタイ進出は、語学が必ずしも得意でない方が一人で来られることも多く、専門技術と日本語ができる人材を求めTNIに採用相談に来られます。

日本語と英語のTNI目標

グローバル時代を迎え、TNIでは日本語力は日本語能力試験N4を、英語力はTOEICスコア600点を目標に、これからの国際コミュニケーション時代に対応できる人材を育成しています。なおBJ(日本語・経営学)課程専攻者はN3を目標にしています。(*日本語能力試験認定の目安ご参照) もちろんこれらの目標を大きく上回る学生もいますが、N4日本語取得者で、はじめはゆっくりしか、日本人とのやり取りができなかった卒業生でも、日本語を使う環境に配属されてしばらく経つと立派に日本人とタイ人の仲立ちをしている事例が見られます。

TNI生の日本語力

多くの日系企業の学生への関心の1つは、日本語がどの程度通じるかです。TNIの卒業生は、個人差がありますが、基本的な会話力を身につけています。TNIでは、日本語教育を週2回少なくとも3年の前期までに合計225時間(+自習はこの2倍。BJ課程は720時間、いずれも選択時間を含まない時間)指導しています。なおTNIでは、小さいときに親と一緒に日本に滞在した者や高校から学習していた者を含み、1級・2級合格者もいます。

限定された時間で目標を達成する

大学4年間の学習時間は約1500時間と限られ、TNIの場合、日本語・英語のみならず、専門技術を学習します。語学専門学校で、1000時間を超えれば、簡単な通訳が可能なN2級レベルになる目標を設定できますが、この語学だけであると秘書業務中心の仕事になり、企業の各分野に従事する可能性は難しくなります。TNIでは、上記の授業時間の限界克服のため、個別指導の日本語チャットルームやボランティアとの自由会話時間、日本人交換留学生との交流、さらに短期・長期の日本語留学を奨励し、毎年200人以上の語学留学機会を設けることなどで、カバーしています。

日本語能力試験認定の目安

N1=社会生活、仕事、新聞など、幅広く使われる日本語を理解し、やり取りが可能 (漢字2千字・語彙1万語程度を習得)
N2=日常使われる日本語の理解に加え、やや高度なやりとりまで可能 (漢字1,000字・語彙6,000語程度を習得、日本の大学留学希望者の目標)
N3=日常使われる日本語を理解 (就労の日本語、場面に応じたやりとりも可能、漢字700字・語彙3,500 語程度を習得)
N4=基本的な日本語を理解 (ゆっくりした会話でのやり取りが可能、漢字300字・語彙1, 500語程度を習得)
N5=基本的な日本語をある程度理解可能 (日常生活などサバイバル日本語が可能、漢字100字・語彙800語を習得)

 

2022年1月1日掲載

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