タイ企業動向

第77回 「タイで加速する食品企業の大型投資」

コロナ禍からの脱却が進むタイで、外食を含む食品関連企業の大型投資が拡大・加速している。名だたる食品メーカーなどは前年を大きく上回る投資計画を相次ぎ発表。その様相は、さながらバブル景気の渦中のようにも見える。巨額で重層的な投資が必要な自動車産業などに比べて、金額もコンパクトで済むことも理由の一つだが、何よりも大きいのはこの3年近くを耐え忍んだ一般消費の反動が大きいと関係者はみる。少なくとも向こう5年間はこの傾向が続くとして、経営計画を見直す動きさえある。完全復活まで秒読み段階となったタイの食品関連業界の「今」が今回のテーマ。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

流通最大手セントラル・グループで外食チェーンを展開するセントラル・レストランツ・グループは、今年をコロナ禍で落ち込んだ収益の回復分岐年と読む。全体の売上高目標を対前年比20%増の150億バーツ(約570億円)と設定、事業計画を立てる。その柱となるのが、多ブランドによった集客戦術だ。
ファストフードの「ケンタッキー・フライド・チキン」やとんかつ専門店「かつや」、ドーナツ店「ミスター・ドーナツ」などの主力に加えて、関連会社を通じて展開するサラダ専門店「サラダ・ファクトリー」、コーヒー店「コーヒー・ありがとう」、焼肉ブッフェ「ナックラー・ムーカタ」などを軒並み多店舗出店する計画だ。顧客に対し選択肢を広範に提供することで、再燃を始めた消費の受け皿になり得るという絵図を描く。一環として、他社が展開する飲食店ブランドの買収も進めていく。

和食店「ゼン」や焼肉店「アカ」などを展開するゼン・コーポレーション・グループも、成長戦略として多種類多店舗化を挙げる。22年の売上高は前年比51%増の約34億バーツ、純利益が1億5400万バーツとともに過去最高を記録した。いずれについても更新を目指すとしており、そのカギとして多種類多店舗戦略が欠かせないとする。
昨年中に同社が新規出店したのは計45店舗。今年はその2倍にあたる計90店舗を新たにオープンさせ、計435店体制とする計画だ。90店のうち直営は40店舗、フランチャイズを50店舗と見込む。展開するブランド数は10ブランドと、多様化した消費者の嗜好にマッチさせたのも特徴だ。
世界最大の食品企業でスイスに本部を置くネスレのタイ法人ネスレ(タイ)は、2023年中にも総額100億バーツ(約380億円)をタイ市場に投じる計画だ。過去5年間で最高額となる投資判断は、回復を見せるタイの国内食品需要と、巣ごもり生活で世界的に拡大したペットフード需要が背景にあると力説する。

業界関係者によると、タイのペット関連市場は現在500億バーツ程度。コロナ禍にあっても拡大を続けているといい、その成長率は10~20%にも。輸出も盛んで、食糧輸出国でもあるタイ産のペットフードが欧米や日本に向けて出荷されている。今年は総額900億バーツを超える見通しで、再来年には1000億バーツ超えの観測も。ネスレ(タイ)もその流れに乗ろうとしている。
このほか、ピザ店「ピザ・カンパニー」を展開するタイ外食大手マイナー・フード・グループが同店を最大50店舗新規出店する計画。24年までに最大500店舗体制を目指すとする。そのための投資額を最大2億バーツと見積もるなど、食品関係各社で積極的な投資が行われる見通しだ。
タイの食品関連市場は、業界団体の試算で外食だけでも22年が4100億バーツ。コロナ禍にあっても前年比14%増加した。今年も最大で二桁超えの成長が見込まれるといい、投資の拡大はしばらく続きそうだ。(つづく)

2023年5月1日掲載

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