タイ版 会計・税務・法務

【第81回】 駐在員の本国給与についてのグロスアップ計算について (2)

Q:タイにおいて、これまでは子会社から受け取っていた給与(現金)のみについて源泉徴収をしていたのですが、日本でも本社から給与を受け取っており、また、他にもいろいろと会社で負担してもらっているので、この方法はよくないと聞きました。本来はどうすれば良いのでしょうか?

A:前回、1.タイにおける個人所得税についての税法上の規定と2. 所得税の対象の支給の範囲について説明させていただきましたが、今回は3. グロスアップ計算というやや耳慣れない計算方法について、ご説明させていただきます。これは、言葉で説明すると「手取り金額から、もとの総支給額を求める」ということになります。語源としては手取りが“NET”(日本語では“正味”と訳されているケースもありますが)であるのに対して、もとの給与(税引き前給与)が“Gross”(総額)となっていることから、NETからGrossを計算するという意味でGross Upとなったのではないかと思います。

例えば、所得税率が単純に35%の場合(*累進課税ではない場合を想定しています)で、給与として手取りとしてもらった額が100あった場合の納税額を計算する場合には、100X35%=35の納税を行うのではなく、100×35%/(1-35%)=53.8の納税額となります。これは税引き後が100であった場合、税引き前の金額は100/(1-35%)=153.8が税引き前の金額となり、これに35%をかけた153.8X35%=53.8が税金となって、残りの100が手取りとなるということになります。(このグロスアップ計算が、タイの方は時々うまくできない場合があり、最初の例のように35を納税額としてしまう場合がありますので、気をつけてください)

さて、具体的に給与金額を計算する際には、このグロスアップ対象の金額と、もともとグロスで支給されている金額が混じってしまって、少しややこしい取り扱いになる場合があります。例えば、①日本で支給される給与(口座入金額);B100,000(*日本円で支給されるケースが多いかと思いますが、ここでは一旦バーツ表示にしておきます)②タイでの雇用契約に基づく給与総額;B100,000 ③家賃として会社が負担している金額;B50,000 の三つの所得税対象の支給があった場合においては、①と③はNET(税引き後)であるのに対して、②は税引き前金額であるため、単純に①、②、③の合計額をたして、これにあてはまる税率をかけることは、グロスアップ計算を行ったことにはならず、納税額を間違ってしまいます。上記と同じく税率を単純に35%とすると、グロスアップ後の総所得は((①+③)/ (1-35%))+②の330,769になり、税額はこの35%の115,769となります。(もし、①〜③を単純合計してしまうと、総所得が250,000で税額が87,500と、本来の計算よりはるかに低い税額になってしまいます)

このように実際のグロスアップ計算においては、総額表示のものと手取り表示のものを分けた上で、算出する必要があります。また、例では単純に35%の税率を使用していましたが、実際の計算においては、1)社会保険等の費用控除、2)給与所得控除や配偶者控除等の基礎控除(人的控除)および、3)累進課税による税率ブラケット(タイの税率は所得の金額帯(ブラケット)に応じて0%-35%の税率をかけて計算することになっています)、これらを考慮した上で、グロスアップ計算を行ない所得税の金額を算出することが必要です。また、毎月の源泉徴収額は原則として年間の所得総額から所得税の総額を見積もった上で、これを12等分する方式がとられていますので、年初にこのグロスアップ計算によって年間の所得と納税額を見積もることが必要になります。

 

今後取り上げてほしいというようなテーマがございましたら、参考にさせて頂きたく存じますので、下記のEmail宛にご連絡頂戴できますと幸いです。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2016年2月

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