タイ版 会計・税務・法務

【第108回】 電子商取引とVAT法改正案(その1)/ BEPSとの関連について

Q:最近電子商取引に関してタイで付加価値税の改正が検討されていると聞きましたが、どのようなものでしょうか?また、これは以前に行われた日本の消費税の改定とも関連するようなものなのでしょうか?

A:2015年に行われた日本の消費税の改定や、今回、タイ歳入庁から発表されたタイ付加価値税(VAT)の改定は、いわゆる電子商取引への対応の一環としての世界的な流れで、前回まで少し説明させていただいたBEPS対策の一つともいえます。
まず、BEPSの基本的な考え方として、事業活動の中心と思われる場所での納税と、法的な納税地が異なった形でのグループ取引を導入することによって、グループとしての税額を減らすということについて、前回までは典型的な方法として、グループ取引価格の操作による利益の移転である移転価格問題および移転価格税制についてご説明させていただきました。
ただ、納税額を少なくする方法としては、これ以外にも様々な方法があり、OECDのBEPSプロジェクトでは、伝統的な移転価格税制に加えて、様々な取引への対応が検討されており、その一つが「電子経済(Digital Economy)の課税上の課題への対処」であり、その最近の動きの典型的なものが「消費税・付加価値税」の外国事業者への課税であるといえましょう。
これまでの伝統的課税体制に比べて、電子商取引が問題となるのは、他国から遠隔で販売やサービス等の提供が可能であること(※サービスがどこで提供されたのかという問題もあります)、資金決済もカード等の利用により国外で行うことが可能であること(※最近は仮想通貨の利用等により、決済を匿名で行うことも可能になってきています)、販売・サービスの提供事業者の法的主体を特定することが困難な場合があること、などが挙げられます。加えて、最近は大量の顧客情報(ビッグデータ)を保有する企業が出てきており、そうしたデータの価値の創出について、顧客が存在する国で課税できないかと点も議論されてきています。
さて、そうした電子商取引に対する課税の中で、近年、早急に対応が必要となってきていたのが、付加価値税や消費税を導入している国における、国外からのB2C取引(国外企業の国内消費者に対するサービス等の提供)問題です。消費者が国内の業者からサービス等の提供を受けた場合は消費税がかかるものの、国外の事業者からインターネットを通じてサービスを受けた場合には税金がかからないという問題が、音楽・書籍・映画等々のインターネット配信が一般的になってきたことにより、起こってきました。

こうした配信業者が海外の法人であり、かつ、海外のサーバーを通じて配信(サービス提供)を行った場合、サービスを受けた消費者の存在する国の税務当局は付加価値税・消費税を課税することが困難でした。またこのような取り扱いは、単に税金の問題にとどまらず、海外事業者が国内事業者に比べて事業展開上有利になってしまうという事態を引き起こしてしまいました(例えば、以前の日本では、同じ映画配信を購入するのに、国内事業者で申し込むと消費税がかかるのに、海外事業者だと消費税がかからないといったことがみられました)。(以下次号に続く)
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

 

2018年5月

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