タイ企業動向
第53回 「新型コロナ感染タイ国内の記録①」
娯楽施設の一斉封鎖から飲食店等商業施設の営業停止、さらには非常事態宣言、夜間外出禁止令、酒類販売禁止など、この1カ月間でめまぐるしく変化した新型コロナウイルス(COVID19)めぐるタイの情勢。本稿執筆時点(4月10日、以下同)でもその勢いは止まず、展望は何ら見えない。タイ中央銀行は、2020年の経済成長予測をリーマンショック以来11年ぶりとなるマイナス5.3%と想定。企業活動への影響も大きく懸念されている。第2次世界大戦以降で最大の危機とされる新型コロナの猛威。本連載では今回よりしばらくを、タイ国内における感染の記録として留め置くこととしたい。 (在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
タイ国内で今後、感染の拡大が懸念される6つのエリアがある。保健省によると、まずは感染者が最も多い①バンコク首都圏。2つの国際空港を持ち、ウイルスが海外から持ち込まれる機会は格段に高い。ここから侵入したウイルスが、3月6日にムエタイ競技場で起こった集団感染につながった可能性は高い。現時点の総感染者数はバンコク都だけで全体の半分の1262人、隣接するノンタブリー県で148人。 バンコク首都圏からダイレクトに伝播した可能性が指摘されるのは、観光地や工業団地が建ち並ぶ②東部チョンブリー県及びパタヤー特別市。バンコクとは高速道路でわずか2時間。人の動きも多く、感染者は県全域で73人。同様に、カンボジアと国境を接する東部の③サケーオ県も要注意だ。対岸のポイペトとは商用のため往来する人は少なくない。現在の感染者は13人に過ぎないが、要注意のエリアだ。 バンコクのムエタイ会場に足を運んだ人が多かったのが東北部の④南イサーン地方。ナコーンラーチャシーマー県で18人、ウボンラチャタニー県で14人、スリン県で9人などとなっており、ウイルスを持ち帰った可能性が高い。ポイペト近郊で働く人も少なくない。 首都圏に次いで危機的とされるのが南部地方。その中でも一段と深刻なのが観光地⑤プーケット県だ。欧州や旧ソ連の出身者が多く、感染防止にも他人事で非協力的。現在166人の感染が報告されており、県は島に通じる陸海空の全てのルートを遮断した。 隣国マレーシアでの宗教行事に参加して感染したと見られるのが⑥深南部3県の人々だ。ムスリムの人たちが多く暮らすヤラー県で77人、パッタニー県で66人、ナラティワート県で24人となっている。モスクに集まり集団で祈りを捧げたことが、密閉・密集・密接を生んだとされている。 日に日に致死率が上昇しているのも気になる点だ。4月3日時点で0.96%だったのが、5日に1%を上回り、10日現在は1.33%まで急上昇している。死者数も4月以降は一日に複数人に達することの多いのが気がかりだ。
(つづく)
20年5月01日掲載