タカハシ社長の南国奮闘録

第93話 本当に大切なこと

私が尊敬する歴史上の人物は上杉謙信だ。

1577年、圧倒的な強さを見せつけた手取川の戦い。強すぎる上杉軍に対し、織田信長の軍勢3万は恐れをなして引き返した。この時のことは詩にも残されている。

「上杉に逢うては織田も手取川 はねる謙信逃げるとぶ長(信長)」

勢いまさり跳ねる謙信の前に、信長はなすすべも無く逃げるしかなかったという意味が込められている。

戦国最強の武将と呼ばれた謙信は、一般的に強くて怖いイメージがあるが、実はとても義理深い人物だった。二度も謀反を起こした家臣の北条高広を許し、幾度も反旗を翻した佐野昌綱でさえも命を奪うことをしなかった。

謙信は幼少の頃より、上越にある林泉寺にて儒教、兵法、陰陽道を学んだ。そして儒教から学んだ義を重んじることにより、最終的に勝利を得てきた。義とは利を捨て道理に従った行動をすること。義のために生きるとは、私利私欲を捨て、世のため人のためを一番に考え行動に移すことだ。

1567年、今川との同盟が破棄された甲斐の武田軍は、太平洋側からの塩の流通を止められ、塩を作れない武田の領地は塩不足に苦しんだ。戦の常道であれば、敵が弱っている間に攻め入るのが勝利への鉄則だ。

しかし、義を重んじる謙信は、そんな武田軍に対して塩を送ったという故事がある。敵が苦しんでいる時に、逆にその苦境を救ったのである。

技能伝承を目的としたテクニアカレッジでは、こうしたエピソードから義の大切さを学び、同業他社、ライバル企業にも門戸を開いている。また、ものづくり屋の仲間たちと情報をシェアしたり、経営についての勉強会を行ったりして、この不景気を一緒に乗り切っていく環境を準備している。

自分の仕事が順調なときに天狗になるのではなく、同業のライバル会社であっても困っていたら手を差し伸べる。そして同じステージで切磋琢磨し合えることが製造業の発展に繋がり、周り回って自社の発展につながると私は信じている。

売上を上げたいときに売上を上げる努力をしても、大した効果はない。その前に大切なのは、いかに義を積んでいるかだ。私は相手が困っていたら、どれだけ時間がかかっても解決するまで寄り添う。そして、その後も声がけを欠かさない。

とても地道なことだが、このようにして繋がったご縁が最終的に自分の会社を支えてくれている。だからこそ、得た利益はそうした関わった人たちに恩返しとして返していこうと思う。

時間はかかるかもしれないが、目先の利益にとらわれず、本当に大切なことは何かを見極めることこそが義の世界だ。私は義を大切にして生きていきたい。

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事