タイ企業動向

第54回 「新型コロナ感染タイ国内の記録②」

未曽有の世界的大流行(パンデミック)を引き起こした新型コロナウイルス。タイにおいても感染者は3000人を超え、死者も60人に達しようという勢いだ。だが、タイ政府が発令した非常事態宣言などが功を奏し、4月下旬以降は新規感染者数も概ね1桁台で推移している。政府は感染拡大が予防できているとして、5月3日から飲食店内での飲食を許可したほか美容院・理髪店などの営業も認めた。この状況が続けば、下旬以降さらなる規制緩和に踏み切るとする。日本などに比べ早期の収束に向かうことになったタイ。その背景にあったものは何なのか。5月10日時点でのタイの新型コロナ対策の現況をお伝えする。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

タイの新型コロナウイルスの感染拡大で、極めて特徴的と言えるのが致死率の低さだ。5月10日現在、日本では累計1万5860人の感染者に対し死者は633人。一方のタイは、3009人の感染者に対し死者は56人。致死率はそれぞれ3.99%と1.86%だ。2倍以上の開きがあるうえ、政府の新型コロナウイルス感染症対策センターによれば重症化するケースも少ないという。  東南アジアの周辺国と比較してみても、タイは低いほうであることが分かる。シンガポールが感染者2万2460人に対し死者20人で致死率0.089%と群を抜いているものの、マレーシアが1.6%、ミャンマーが3.3%、フィリピンが6.6%、インドネシアが6.9%とバラツキがある。ベトナムとカンボジアは死者はいない。  一方、欧米各国は最大の死者数を出している米国が5.98%、英国が14.6%と際だって高くなっており、制御ができているとされるドイツでさえも4.4%。タイなどの低さが目立つ。ただ、検査に積極的なシンガポールと強権的な都市封鎖をしたマレーシアで致死率が低くなる可能性については理解が及ぶものの、タイでなぜ致死率や重症率が低いのかについてはよく分かっていない。  こうした中、バンコクの呼吸科医らがSNSで発した一つの仮説に注目が集まっている。タイでは幼少期に結核を予防するBCGワクチンを接種するケースが多く、これが重症化を防止したり、早期の回復の一因となっているのではないかというのだ。  仮説は今後の検証が必要で、現時点での正当性は不明だ。だが、すでにドイツなどの研究者が関心を持って研究を始めている。企業活動など経済への損失は1兆バーツを遥かに超え、失業者も1000万人以上に上るとみられるタイの新型コロナ。実態が不明な未知のウイルスによる騒動は、もうしばらく続くことが確実だ。(つづく)

20年6月1日掲載

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