泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第23回 『クリサダー学長に聞く ものづくりをどう教える』

タイでのものづくり教育を進める私ども泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、前号の「タイの教育事情とTNIの試み」からさらに踏み込んで、クリサダーTNI学長に「TNIの特長と日本のものづくり教育をどう教えるのか」を語ってもらいます。

タイの大学とTNI:TNIは小さくても光り輝く大学を目指します

●タイの大学とTNIの特長を教えてください

クリサダー(以下K):タイの大学数は総計で170を超えていますが、このうち国公立大学が過半の100ほどを占めます。名門のチュラーロンコーン、タマサート、マヒドン、チェンマイ、コンケンなど30、さらに教員養成を目的としていた40のラチャーパット大学、工業大学・工業専門学校前身のラチャーマンガラ(=ラチャーモンコン)9校、19のコミュニティ大学です。私立は70ほどありますが、最初の私立大であるバンコク大、国際課程とビジネスで有名なアサンプション大(ABAC)、タイ商工会議所大(UTCC)、スィーパトム大、カセームバンディット大、ランシット大など1万人以上学生がいる大学は10校ほどで、大部分は規模の小さな大学で文科系が多いようです。産業教育、職業教育という観点からは、残念ながらすべてが社会の需要に応えられていない状況です。

この中で、TNIは小さくても光り輝く大学を目指します。日本と日系企業に関わり、ものづくりや技術移転、学術交流に深く関わりたいと思っています。日本語教育と日本のものづくり教育の指導のもと、今では、TNI生は日本の環境に習熟・適応が早い、日本人との研修経験が多いなどで日系企業やタイ企業の評価を得ていますが、将来はさらに、デザイン、メディア、ヘルス・サイエンス、食品なども対象にして、日本の技術や日本に詳しい、日本と直結という強みを強化したいと思っています。

 

タイと日本の教育交流の意義

○日本は、チームワークなど集団教育は良いと言われる一方、独創性などが課題と言われていますが、タイ教育で日本に貢献できることは?

K:タイも残念ながら独創性はなく、特に個人的、利己的で規則を守らないなど、タイだけの集団は難しいという課題があります。アセアン2015が間近ですが、多様化社会に共存するという観点から、日本の単一社会的な思考に補完的な役割を持てるかと思えます。地理的にもアセアンやアジアに日系企業が拡大する中で、協力できる要素があると思います。また学術交流で日本人学生へのインターンシップ協力を実施しています。TNI主催の国際学術交流会議ICBIRに参加していただくこともあります。また、日本のおもてなしとは違うかもしれませんが、サービス産業でのサービスマインドもあります。

 

日本のものづくりをどう教える?

○日本のものづくりについて、TNI wayというか、学生にどう教えていますか?

課題解決型学習(PBL)で、ものづくりを体験。
左写真はTPSの演習。右写真はロボコン機器制作(左端は学長) 

K: タイでは、中学生はクラスのリーダーとして一人だけ選ばれますが、掃除や給食などを自分でやらず、グループ活動は苦手です。つまり食事でお盆を下げたり、ごみを分別したりするのはメーバーン(お手伝いさん)の仕事になるからです。
TNIでは、単なる講義や実験でなく、PBL(課題解決型学習)として課題を与えて、作ってみる+学習することに重きを置いています。①プロジェクトでものをつくり、②ビジネス・プラクチス(慣行)を習います。③情報学部では、ITソフト、ウエブサイトを見るにあたり、デジタルハリウッド大学のやり方も参考になります。さらに5現主義(現場、現物、現実、原理、原則)を徹底して、インターンシップなど実際に工場現場で習います。工学部では、設計もカティアなど工場で働く環境に近いものを用意し、ロボット・コンテストなどの課題で、チームとして作る、時間管理、スケジュールを遵守します。ものつくり大学や金沢工業大学、豊橋技術科学大学、長岡技術科学大学とも交流しています。さらにクラブ=サークル活動でも同様に自主的に習います。

聞き手・編集:吉原秀男(Yoshihara Hideo) 泰日工業大学(TNI) 学長顧問

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