タイ版 会計・税務・法務

【第90回】 車両の減価償却についての税法上の取り扱いについて

Q:タイにおいては、社有の車両についての減価償却の税務上の取り扱いについて特別なルールがあり、また最近改正されたと聞いたのですが、どのようなものでしょうか?

A:タイにおいては固定資産関係の取り扱いについて、日本とは異なるものが比較的たくさんあります。その中の一つが、車両の減価償却費にかかわる税務上の損金算入についてのものです。

ここで、“税務上の損金算入”という言葉を使わせていただきましたが、会計上の損金(つまり損益計算書で費用としてのっている金額)と、税務上の損金(法人所得税の計算のために、課税所得からマイナスをすることができる費用)とは違うことがあります。例えば、損益計算書上では費用は100となっているのに、税務上の費用では費用は50と異なっている場合があります。タイで典型的なものとしては他に、交際費の損金算入限度(総収入と資本金のいずれか大きい額の0.3%*上限1000万バーツ)や、寄付金等がありますが、本稿の車両の減価償却の上限もその一つです。

具体的には、取得価額が100万バーツを超える「乗用車および収容人数10名以下のバス」については、減価償却の上限は100万バーツまでで、それを超えるものを買った場合には、会計上は償却費として計上できても、税務上は損金算入できないものとなっています。100万バーツというと、タイで大きな市場シェアを占めているトヨタ車ですとカムリクラスとなるのですが、例えば同車種を150万バーツで購入し、5年の償却期間(定額)とした場合、損益計算書では毎年30万バーツ(150/5年)の減価償却費用がでているのですが、税務申告書上は20万バーツ(100/5年)の損金しか計上できず、結局年間10万バーツの差額分には法人税(20%)が課税されてしまうことになります。

なお、リースの場合は月額36,000バーツが「乗用車および収容人数10名以下のバス」に適用される損金算入の上限ですので、単純に1カ月の費用として計上できる金額は、通常の5年の減価償却を前提とした場合の16,666.67バーツ/月(100万バーツ/60ヶ月)よりも大きな額の損金をとることが可能になります。

さて、これまでは取得価額が100万バーツを超える「乗用車および収容人数10名以下のバス」についての上記の損金算入限度の対象外となっていたのは、リース会社のリース用車両のみだったのですが、今般“研究(Research)”、“開発(Development)”および“性能試験(capacity testing )”用のテスト車両については、上記の100万バーツの上限規定を撤廃して償却額の全額が損金として計上することが可能になりました(Royal Decree No.620)。

これは、タイにおける自動車産業の中でもR&Dを振興するための税制改正と言われております。ただ、通常の会社においてはあまり影響のないものかと思われますので、むしろタイにおける車両についての減価償却損金算入限度額の存在と、実際に購入される際におけるリースとの比較が重要ではないかと考えます。

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

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