タイ版 会計・税務・法務

【第101回】 投資企業で派遣される個人への優遇処置について

Q:最近、個人所得税について一定の投資企業に勤務する個人については、優遇処置を追加すると聞いたのですが、どのようなものでしょうか?

A:もともと、BOI企業のうちIHQやITC企業に対しては、駐在員の個人所得税を15%の定率とする旨、恩典が与えられていましたが、今般7月に更に対象企業を拡充する形で、個人所得税の減免処置(Royal Degree No. 641)が発表されましたので、以下ではその内容を見ていきたいと思います。
まず、この拡充措置はいわゆる東部経済回廊(EEC)地域開発奨励策の一つとして導入されるもので、チャチュンサオ、チョンブリー、ラヨーンの3県の企業の企業が対象とされていますが、その他に下記の要件が求められています。
① BOIでの免税企業もしくは奨励業種として法人税免税を受けている企業であること。

② 奨励業種とは以下のものを指します;1)次世代自動車、2) スマートエレクトロニクス、3) 高所得者層向け健康および観光産業、4) 農業・バイオテクノロジー、5) 食品加工、6) ロボット・自動機器、7) 航空輸送産業、8) バイオ燃料、バイオケミカル、9) デジタル関連、10) 総合医療

③ 対象となる個人の要件としては以下のものがあります;1)別途定められる要件に沿った雇用の要件(マネージメント、技術者等々)、2)対象となる企業につとめており、また雇用場所が上記の3つの県であること。またそれを証した書類を税務署に提出すること、3)所得がタイで全て支払われていること、4)当該個人所得税の恩典を利用するのに際して、当該恩典を適用する初年度以前は180日以上タイに滞在しておらず(*したがって、新規赴任の人が対象になるかと思われます)、また最初の年と最後の年を除き、一年で180日以上タイに滞在していること(*これはタイで働いている人を対象とする意味から規定されていると思われます)。

これらの要件を満たした場合においては、以下のような個人所得税に対する恩典が与えられます。通常の累進課税方式に比べて、17%の定率課税方式で税額を計算した方の税額が低くなる場合、当該17%定率課税方式で計算した金額が個人所得税額となります。17%の税率を超える分の所得について、課税対象所得に参入する必要がありません。また、税額が通常の計算で17%定率課税を下回った場合において、会社が17%の定額源泉徴収をしている場合は、源泉徴収還付を行わないのであれば、個人所得税計算の際には課税所得対象所得が無いとして申告することが可能です。またこの恩典の適用にあたっては税務署に対して事前に届出をする必要があるとされています。詳細については、別途税務通達が発布されるかとは思われますが、タイの個人所得税は日本と比べて高いため、こうした形で17%の個人所得税免税が行われるのは、①グロスアップ方式で会社が税額負担をしている場合には、会社の人件費を大きく引き下げるメリットがあること、②日本の個人所得税は高額所得者にとっては負担の大きいものですが、17%の定額税率ということになれば、対象企業の創業者や研究者等の高所得人材をタイにひきつける要因となること、などのメリットがあると考えられます。

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

 

2017年10月

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