タイ鉄道新時代へ

【第75回(第3部35回)】 中国「一帯一路」の野望その7

ラオスの首都ビエンチャンでタイ中高速鉄道と接続することが確実視されている中国とラオスを結ぶ高速鉄道「中老鉄路」は、古都ルアンパバーンを出発後はバンビエンに向け再び険しい山岳地帯を走行する。直線で約110キロとそう離れてはいないものの、区間のほとんどはトンネルや橋梁といった構造となっており、車窓を楽しむ旅とは無縁だ。計画ではこの区間を列車が最高時速160キロで走行し、1時間ほどでバンビエン駅に到着する。カルストの大地が続く観光地。今、ここにラオス政府が観光収入をめぐって熱い視線を注いでいる。

(文と写真・小堀晋一/デザイン・松本巖)

2019年8月、ラオスのトーンルン・シースリット首相はビエンチャン県バンビエンの観光地を視察に訪れていた。随行には情報文化・観光省の高級幹部。対するホスト役を務めるのは現地の観光担当部局の役人たち。ここで同首相は、景観を活かした観光事業を強化するよう指示。取り付け道路の建設などインフラ整備を進めるよう命じる一方で、飲食店やゲストハウスから事実上垂れ流しとなっている排水施設の改善など子細な環境問題にも言及した。  首相の指示は、バンビエン一帯の物価高の是正にまで及び、その都度、情報文化・観光省の随意行員たちがメモを取るなど対応に追われていた。国家主席に次ぐラオス人民革命党党内序列第2位の首相がわざわざ一介の地方都市を訪問し、その地区の箸の上げ下げまで指示するのは珍しい。それだけにこの時期の訪問は、ラオス政府の危機感とバンビエンの観光資源を国家財政に活用したいという強い意志として受け止められた。  総工費約60億ドル(約6500億円)を投じて建設される中老鉄路は、その7割を中国が負担する。ラオスにも残りの出資義務があるとはいえ、財政の脆弱な政府に支払えるだけの余裕はなく、多くが借款供与される見通しだ。つまり、せっかく2021年末の全線開通を見たところで、数年あるいはそれ以上先までラオスに落ちるカネはほとんどないことを意味する。政府がこのことを当初から明確に認識していたかどうかは分からないが、完成を前に鉄道収入に頼らない副収入の道を確保しておこうと躍起となる理由がここに存在する。

2019年8月、ラオスのトーンルン・シースリット首相はビエンチャン県バンビエンの観光地を視察に訪れていた。随行には情報文化・観光省の高級幹部。対するホスト役を務めるのは現地の観光担当部局の役人たち。ここで同首相は、景観を活かした観光事業を強化するよう指示。取り付け道路の建設などインフラ整備を進めるよう命じる一方で、飲食店やゲストハウスから事実上垂れ流しとなっている排水施設の改善など子細な環境問題にも言及した。  首相の指示は、バンビエン一帯の物価高の是正にまで及び、その都度、情報文化・観光省の随意行員たちがメモを取るなど対応に追われていた。国家主席に次ぐラオス人民革命党党内序列第2位の首相がわざわざ一介の地方都市を訪問し、その地区の箸の上げ下げまで指示するのは珍しい。それだけにこの時期の訪問は、ラオス政府の危機感とバンビエンの観光資源を国家財政に活用したいという強い意志として受け止められた。  総工費約60億ドル(約6500億円)を投じて建設される中老鉄路は、その7割を中国が負担する。ラオスにも残りの出資義務があるとはいえ、財政の脆弱な政府に支払えるだけの余裕はなく、多くが借款供与される見通しだ。つまり、せっかく2021年末の全線開通を見たところで、数年あるいはそれ以上先までラオスに落ちるカネはほとんどないことを意味する。政府がこのことを当初から明確に認識していたかどうかは分からないが、完成を前に鉄道収入に頼らない副収入の道を確保しておこうと躍起となる理由がここに存在する。

一方、中国だけの枠組みに囚われない地球規模の取り組みについても模索を始めている。その筆頭に挙げられるのが地球温暖化防止に伴う二酸化炭素(CO2)の排出権取引だ。CO2の排出が少なく、エネルギー源をほぼ水力発電で賄うラオスは、全土を深い密林が覆っていることもあって、排出権取引をめぐって優位に立てるとの思惑が存在する。トーンルン首相も今年に入って、政府系シンクタンクの国家経済研究所に指示。ラオスが主導権を握れる施策や事業の企画立案を進めていく意向だ。  中国の衛星国などと、長年にわたって嬉しくない評価を受け続けてきたラオス。だが、近年はわずかだが独自性についても見え始めようとしている。その初めての試金石となる中老鉄路の全通が、当面の目指す着地点だ。(つづく)

 

2020年3月1日掲載

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