タイ企業動向
第68回 「異業種からも参入相次ぐタイの宅配市場」
新型コロナウイルスの流行に伴い拡大する宅配市場に、地域や業種の垣根を超えた企業の参入が相次いでいる。いち早く需要を取り込んだのは、日本や中国、シンガポールなどのスタートアップ企業。また、タイ国内でも大手都市銀行や大手格安航空会社が料理の宅配事業に挑むほか、利用者の増す電子商取引(EC)サイトを運営する企業も二匹目のドジョウを狙う。料理の宅配だけで市場は年間で最大24%も成長するとの試算もあるなど、伸び代には高い期待が注がれる。コロナ禍により消費者の行動様式や生活スタイルは大きく変わった。アフターコロナに向け、官民挙げて取り組むその動向を概観する。 (在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
新型コロナが流行を始めた2020年4月以降、タイでは料理や生活用品を自宅に届けてもらう宅配ビジネスが急成長。大手カシコン銀行傘下の研究機関は、今年の市場規模は前年比24.4%増の約560億バーツになると推計している。注目されるのは利用回数で、コロナ禍前の年間4000万件から今年は1億2000万件超に急拡大すると見込まれている。民間の調査会社ユーロモニターの調査でも、昨年680億バーツだった市場が今年は740億バーツに拡大するなど、成長率は10%前後と試算されている。
政府も、こうした市場の動きを支援する考えだ。食品や日用品など生活必需品の利用代金の半額を国が補助する生活支援策「コーペイメント(コン・ラ・クルン)」事業と、購入代金の一部を還元する「イン・チャイ・イン・ダイ」事業について、その対象を今年10~12月の四半期から料理の宅配サービスにも拡大したのだ。これまでに前者の事業については約2670万人、後者は約47万人が利用しており、宅配についても多くの利用が見込めると判断した。利用客の多いラインマンやグラブフードなどの業者は軒並み対象に含まれており、宅配市場の成長にも弾みがつきそうだ。
宅配業者を後押しする一方で、雇用される配達員(ドライバー)や料理を提供する零細企業の支援も目指している。政府のデジタル経済振興機関は、民間との共同で宅配サービスの関連会社を設立。プラットフォームを開発して安価で提供するなど、法外な委託手数料を排除していく方針だ。配達員に対しては安全走行をめぐる研修を実施するなどサービスの向上とコロナ感染対策も行う。こうした取り組みにより、来店客が減って宅配に頼らなければならない零細企業の救済ができ、配達員の質の向上にもつながるとしている。
また、宅配需要の拡大によって増加が見込まれるプラスチック製ごみについても分別を呼びかけ減量化に取り組む方針だ。バンコク都庁と連携を取るなどしてリサイクルを進めるほか、ごみの全体量を抑制する簡易包装や再利用なども導入していくという。
宅配需要の増加は、二輪市場の活況にもつながっている。二輪業界は今年のタイの同市場がコロナ禍の低迷期にあって前年比1%増の154万台になると予想している。宅配用途が牽引しているという。 (つづく)
2021年11月1日掲載