タカハシ社長の南国奮闘録
第66話 決断
社長の仕事で最も重要なことは決断である。進む決断は、判断の範囲で行うことが多い。その一方、「たたむ 削る 変える」というイノベーション型の決断は難しい。ものすごくパワーがいる。特に撤退ともなると、恥や外聞、世間体が気になる。勇気ある撤退などと言うが正直、胃がよじれて物が食べられなくなる。
かつて岐阜県各務ケ原市に貸工場を借りて、航空機産業に参入する夢を描いていたが、リーマンショックで撤退を余儀なくされ萎縮してしまった。なかなか得難い経験だった。今でもその時のことを思い出すと気分が冴えなくなる。
利益を得る前に損失を出してしまったが、流血を抑えることができたのは事実だ。その結果、日本国内での事業拡大、航空機産業の需要に応える夢の実現は延期となった。
それから一年後の2009年、タイで仕事をするチャンスに恵まれ、新たな活路を海外に見いだす作戦に転換することにした。
わずかな資金で設備投資をし、そのタイミングでの渡航を社員が決断してくれた。大きな方針転換となったが、ここで学んだのはお客様の要望ありきということ。まさにマーケットイン、市場によって必要か否かが決まる。先の市場を少しでも早く読み、対応することが大切だと学んだ。これから数年は、お客様の要望に応えるため、さらにタイ工場への投資を行うことになりそうだ。
2010年には国内市場の好調により、延期していた航空機産業への参入もスタートする運びとなった。それはとても高いハードルだった。航空機品質の規格JISQ9100の取得、CAD/CAMソフト、加工技術、品質管理体制などの実績が無かったため、当初は門前払いの日々が続いた。しかし最後は市場に後押しをいただいた。
2015年には岐阜県郡上市白鳥に1・1ヘクタールの工業用地を購入し、念願の航空機専門の加工工場(1000m2)を建設した。さらに今年度は3000m2の工場を建設し、国内需要に応える拡張工事を行っている。この工場は別分野の市場にも対応する。
思い返せば、あのときの撤退が今に繋がっているのかもしれない。間違った市場の読みや、思いだけの投資は命とりだ。
経営者は時として胃のよじれるような決断を迫られる。涙を飲んで、恥も外聞もかなぐり捨てて、経営が順調に継続するための決断を行わなければならない。決断を先送りにすればするほど傷口は広がる。
したくない決断ほど、早く答えを出したほうが良いようだ。なぜなら損切りをして先に進み、失敗から学んだ反省を新たな取組みに生かし、次に繋げることができるからだ。
これは二度と同じ失敗をしないための大切な取組みである。こうした経験を積んだ分だけ会社は進化飛躍するものだと、今ようやく少し思えるようになった。