AIで進化する製造業 インダストリー4.0の時代

人間からAIへの知能移転

AIとは人間の知能を機械システムに移転・集積することである。コンピュータでシステムを変換・発展させながら、コンピュータの知的な働きをさらに充実させ、人間の労働を機械システムに依存可能なレベルに引き上げる。そのことで効率が飛躍的に上がるのは、AIがマシンラーニングを可能にするからだ。コンピュータは自力で作業プログラムを組むことができる。AIには以下の3種類がある。 専用の人工知能(ANI) 別名「弱いAI」と呼ばれ、狭い分野でしか効力を発揮しない。各分野に対応する形で展開、応用されている。 汎用の人工知能(AGI) 別名「強いAI」と呼ばれる〝人間の頭脳並みのAI〟で、人間そっくりの総合的な能力と賢さを発揮する。論理的な思考ができ、計画立案、問題解決、複雑な思考が可能。さらに経験から学ぶことができる。 超級的人工知能(ASI) 人間の知力を超えた思考力と能力を示す。

現在すでにAIは各局面で使われている。特に専用の人工知能は生産工程の中で広く普及しており、主に次の4つの技術と併用されている。 AI支援予知メンテナンス 生産工程内の機械類にあらかじめ予想される問題または損失を分析し、メンテナンス予定に織り込む。また機械類の定期的な点検・修理も予定に織り込む。 デジタルツイン 実際に対応するシミュレーションシステムの構築。発生し遭遇する各種問題をAIがあらかじめ織り込む。クラウドシステムおよびIoTによりリアルタイムで併用される。 AI支援サプライチェーン管理 AIを導入した生産工程分析で、原材料や各種部品の発注計算に使用される。また数量の増減をあらかじめシミュレートできる。 ヒューマンロボット協働 AI管理下の人間とロボットの協働システム。機械類および工業用ロボットに対するマシンラーニングの進行にも応用され、工場内の事故低減を進める。

工業セクターのAI応用

AIの知能は日々進歩しており、設計・開発の分野でも普及を広めている。医療・健康、農業、金融、保険、輸送、建設、各種製造業など多くの産業部門でハイテク工程にAIが導入され、人間の高度な仕事を助けている。実際のAIの実力は次のとおり。 マシンラーニング 定められたデータに従って機械類に自力で学習させる。AIは自動的に学習させ、経験を発展させる機能を発揮する。 自然言語の評価 機械類に人間の自然言語を評価する機能を持たせる。とはいえ人間の自然言語をすべてカバーするにはまだまだ限界がある。 自動的な見える化・プラン・スケジュールの作成 これらの機能を機械類、コンピュータに持たせる。規定の目標に向かってやるべきことの優先順位を判断し、効率的なプランを作成させる。人間よりも優れた判断を機械にさせる。 エキスパートシステムによる分析 人間の専門的な判断プロセスをさらに的確に機械類、コンピュータにさせる。専門案件に対する専門家の分析・判断力をコンピュータに持たせる。 会話認識 会話言語における語順・音調をとらえて、コンピュータに音声を読める単語に変換させる。 コンピュータヴィジョン 機械類に画像を見せて各ポイントの特徴と全体の構成を認識させる。同時に人間が見たように画像を再生させる。 ロボティクス 人工知能の一環としてのロボット、電気工学、機械工学、コンピュータ科学の応用の集積。業務の目的に応じて設計・実用を異にするロボットを創造する。すでに生産工程において産業用ロボットが細かく応用されている。

世界各国のAI開発

世界は4回目の産業革命「インダストリー4.0」に向かっている。経済・社会・生活レベルの向上が進み、今や多くの国々で技術のディスラプション(創造的破壊)が認識されてきている。  思考のさらなる凝縮をイノべーションの進行につなげ、経済発展、生活水準の向上につなげ、国の競争力の増進につなげる。それにはAIが技術面の最重要点となる。AIは国の競争力を増進させ、政策を推進させ、政府の仕事を最高度に効率化させる重要なツールとなり、ひいては国民の大きなニーズに応えることにもつながる。  DGA(デジタル政府開発機関)が作成した「政府の管理とサービス向けのAI」というEブックがある。そこには多くの国々がAIを重視し研究開発に注力していることが書かれている。特に先進国は、国家発展の具体的な専門政策としている。  たとえば英国は、大企業を動かす戦略としてのAI分野で世界のリーダーになる計画を策定。これは官民の研究開発活動をすべて包含するもので、2018年にはデータのガバナンスとイノベーションに関するセンターを開設した。  ドイツはAIメイドインジャーマニーなる短期政策を公表。ドイツ自前のAI技術を世界に認められるレベルに引上げるのがねらいだ。政府サービスの研究開発およびAIガバナンスのベース固めを進める。  デンマークはデジタル技術の導入でリーダーシップをとる姿勢で、基本目標はデジタル技術の性能開発による国際競争力の増進。  フィンランドはAI実用化の戦略を練り始め、重要な報告が2件出された。「人工知能の時代」および「人工知能の時代における労働」で、前者は人工知能の強みと弱み、後者は将来の労働市場への衝撃に対する政策的提言である。  米国はAI技術の研究開発を進める人工知能委員会を設置。政府、産業界、研究所の一層の連携が期待される。またイノベーションを阻害するものの排除を進めて、民間におけるAI研究の効率化を図っている。  カナダはパン・カナディアンなるAI分野の国家戦略を定め、AIの特殊な能力を開発する5か年計画の具体策を掲げた。CIFAR(カナダ先端リサーチ研究所)がAIのガバナンス政策とその影響をチェックする役割を負う。  アラブ首長国連邦(UAE)は中東諸国のなかで先陣を切ってAI政策を定め、人工知能省を編成した。UAEセンテニアル2071なる長期的展望による政策で、政府の政策に役立つAI導入が焦点となる。  中国は2017年に次世代人工知能開発計画を定めた。計画は3期からなり、以下の目的を定めた。第1期はビッグデータの活用、無人システムの普及、インテリジェントな基礎構造システムを焦点とし、2020年にAI開発のリーダー国になる。第2期は工業、農業、医療、国防、法制を焦点とし、2025年にAI研究のブレイクスルーを達成する。第3期は2030年に世界のAI研究のトップに立ち、社会と国防を充実させ、国内総生産を年間1,500億ドルに増大させる。  日本は AI開発を目的とするAI技術戦略会議を編成し、2017年3月にAI戦略計画を公表した。AI導入による産業開発ロードマップというものが注目されている。この開発戦略は、第1段階でAIに多方面のデータ分析と応用を成し遂げさせ、第2段階で各種ドメイン内で開発されたデータとAIによる公共面の実用を進め、第3段階で各種ドメインにまたがる生態システムを創出する。この戦略は日本のソサエティ5.0の基幹プロジェクトである。  シンガポールはIoTによるスマートネーションに国を変えていく方針を公表。国民の生活水準の向上と併行する発展政策として、交通と保健サービスが焦点となる。またシンガポールは金融、保健、政治統制におけるAI活用を軸とするAIシンガポールプロジェクトをスタートさせた。  タイはタイランド4.0政策を進めている。イノベーションによる経済発展を焦点に、デジタル、IoT、人工知能を重視し、これらの部門に注力する。創造思考の科学、イノベーション、科学技術の研究開発を一層充実させることが鍵となる。2019年にはデジタル経済省デジタル経済推進室が、IoTデジタルイノベーション研究所、国立人工知能研究所、政府ビッグデータ管理分析推進研究所を発足させた。この3つの研究所はイノベーション技術をレベルアップする役割を担う。大企業、中小企業、国民、国内のあらゆる末端ネットワークの総合的強化、ビッグデータ活用のための分析プロセスの管理を目的とする。

ディスラプションの時代

どの国にも共通しているのは、技術の変転が激化する時代をサバイバルするべくAI実用に向け躍起になっていること、そしてAIを国民のより良い生活実現のための国家戦略としていることだ。しかし実際のところ、各国の準備状況はどうだろうか。  オックスフォード大学は2019年、各国政府の人工知能に対する準備度の指標を公開した。この報告は国際開発調査センター(IDRC)の国別評点を反映したもので、世界194か国の2019年のAI実用の準備状況について、上位10か国の評点が出された。  1位はシンガポールで10点満点の9.186点、2位は英国で9.069点、3位はドイツで8.810点、4位は米国で8.804点、5位はフィンランドで8.772点、6位はスウェーデン、カナダが同点の8.674点、8位はフランスで8.608点、9位はデンマークで8.601点、10位は日本で8.582点。ちなみに中国は20位で7.370点。  アセアンではマレーシアが22位で7.108点、フィリピンが50位で5.704点、タイが56位で5.458点、インドネシアが57位で5.420点。

同調査からは、将来のAIの発展について、世界各国がはっきり覚醒していることが見てとれる。将来的には産業各部門の舞台で一段と業務の変化を推進する重要なメカニズムになるだろう。

今はまさに、テクノロジーによるディスラプション(創造的破壊)の時代だ。最も重要なのは、各種技術のスピーディな変転をよく見極め、柔軟に理解し、開発と競争力強化の速度を緩めないことである。

2020年3月1日掲載

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事