タイの電力 エネルギー新時代を迎えて

文/Jeeraporn Thipkhlueb

エネルギーは世界経済の主要な成長エンジンであり、技術の進展と共に急速に変化している。新しいテクノロジーは、何十年にも渡り普及してきた従来の技術や概念を大きく変え、それに取って代わる。政府と企業はその潮流の変化に乗り遅れてはならない。  近年は異常気象やコロナ禍の影響で変化の質も激変している。ニューノーマルの行動様式、デジタル技術の普及が加速するなか、世界のエネルギーは新時代を迎えた。それはすでに、環境負荷の低い再生可能エネルギーを中心とした全く新しいエネルギーシステムへの革命的な転換となって表れている。 タイでは昨年、石油、天然ガス、石炭・褐炭の使用量の減少によりエネルギー需要は5.8%減少したが、再生可能エネルギーは0.4%増加した。  2021年は新型コロナウイルスの再流行による経済の停滞が懸念されるが、エネルギー需要は0.1~0.4%増となる見込みだ。再生可能エネルギーの需要は政府の奨励政策により5%増加すると予測されている。  スパタナポン副首相兼エネルギー相は、2021年のエネルギー政策推進の方向性について、「強力なエネルギーの構築」「基礎経済の推進」「クリーンエネルギーへの投資促進」の3項目に注力すると述べた。タイのエネルギー政策は世界の潮流に乗り、タイの現実に合わせることを基本とし、開発も使用も時代の変化に即している。エネルギーは今後、タイ経済のメカニズムを駆動させる原動力となるだろう。

2020年の燃料消費は全種減少

エネルギー省エネルギー政策計画事務局(EPPO)は、新型コロナウイルスの感染拡大による観光業や航空業界の不振から、2020年の燃料消費量は種類を問わず軒並み減少したと発表した。  石油製品の消費は11.5%減、ディーゼル油は2.6%減、また旱魃や洪水により農産物の出荷量も減少した。車の通行も激減し、ガソリン、ガソホール(エタノールを混合したガソリン)の消費は1.2%減、航空燃料は61.8%減となった。これらは県レベルの越境禁止、航空便の減便・停止などによる。  航空産業は世界的に未曾有の危機に瀕しており、タイでも昨年5月にフラッグキャリアのタイ航空が経営破綻したのを皮切りに、6月にはノックスクート、7月にはノックエアと破綻が相次いだ。  液化天然ガス(LPG)の使用も輸送を中心に各分野で落ち込み、合わせて26.3%減少し、価格差によってLPGから燃料油へのシフトが進んだ。石油化学の素材使用は17.7%減、石油の使用は産業用が7.9%減、家庭用は4.5%減となった。天然ガスは8.2%減、NGV(天然ガス自動車)は28.5%減となり、自動車ユーザーのガソリン車への乗換えが目立った。石炭使用は工業セクターで0.2%増だった。電力消費量はほぼ全ての部門で落ち込み、2.9%減となった。とりわけホテル、デパート、レストラン、ナイトクラブなどロックダウンの影響を受けた業界で大幅に減少した。一方、各分野において二酸化炭素(CO2)排出量が減り、発電、輸送、工業セクター各部門にわたり前年比11.2%(2億2,280万トン)減少した。代替エネルギーは0.4%増、輸入電力(水力)が7.1%増だった。輸入電力については、2019年末よりラオスからの電力輸入が増えている。

コロナ再流行で回復鈍化懸念

2021年のエネルギー使用の傾向について、EPPOのワタナポン事務局長は次のように語った。  「経済予測と政府の政策をベースに見るならば、まず国家経済社会開発委員会は21年のGDPは20年比3.5~4.5%増と予測した。ドバイ原油価格は1バレル当たり41~51ドル、バーツ価格は1ドル30.3~31.3バーツという前提だ。ガソリンを除いた21年のエネルギー消費量は0.2~1.9%増となり、天然ガスは0.1~4.1%増、石炭・褐炭は0.1~0.4%増、政府が促進する再生可能エネルギーは5.0%増、電力輸入は0.1%増を見込んでいる。  一方、観光部門の不振により航空燃料は45.8~51.5%減と予測している。ディーゼル油は0.8~1.3%増、ガソホールは0.3~0.8%増。液化天然ガス(LPG)は1.0~5.5%減となり、調理用と工業用ガスがそれぞれ1.1~2.5%増、1.2~3.6%増、自動車向けは12.2~15.8%減と予測している。  電力消費は、政府の経済奨励策が奏功して前年比20%増の1,910億2,900万ユニット(キロワット時)を見込む。新型コロナ再流行について、EPPOは1回のみの再流行と、複数回の再流行のシナリオを想定しており、今後も引き続き国内外の新型コロナの状況を注視していく必要がある」

2021年のエネルギー政策

スパタナポン副首相兼エネルギー相を次のように語った。  「タイは政府によるコロナ対策が功を奏し、国内感染は比較的抑制してきた。他のアジア諸国に比べ、経済への打撃もそれほど深刻ではない。政府は電気料金の引き下げに伴い340億バーツを拠出し、3,000万人が恩恵を受けた。家庭用液化石油ガス(LPG)価格の引き下げ措置には35億バーツを拠出した。他にもタクシー、バス、乗り合いバンなど公共交通機関向けのNGV(天然ガス自動車)燃料については8億バーツの助成が為され、石油基金への徴収金も月額12億バーツ値下げされた。これらの各種値下げに拠出された金額は計500億バーツにのぼる。  また政府は経済を活性化するため、石油事業からの収入を政府部門に集めた結果、1,300億バーツの収益を生み出した。地元の雇用も確保し、地方のコミュニティーの所得増を実現した。その総額は全国で1,790億バーツにのぼる」  エネルギー省は2021年のエネルギー政策に1,279億3,200万バーツを投資し、「強力なエネルギーの構築」「基礎経済の推進」「クリーンエネルギーへの投資促進」の3項目を推進する。  タイでは今後の経済発展に伴うエネルギー需要の伸びに対応するエネルギーの安定的確保・供給がエネルギー政策の最重要課題として認識されている。この政策は、2015 年に発表されたタイ長期エネルギー政策(TIEB:Thailand Integrated Energy Blueprint)として提示されている。TIEB は、PDP(Power Development Plan:電源開発計画)、EEP(Energy Efficiency Plan:省エネルギー計画)、AEDP(Alternative Energy Development Plan:代替エネルギー開発計画)、Gas Plan(ガス計画)、Oil Plan(石油計画)の5つのエネルギー政策から構成されている。  「強力なエネルギーの構築」に関して、エネルギー省は上記政策に基づき国家エネルギー計画として閣議に提案する。そして首相が委員長を務める国家エネルギー政策委員会で検討された後、民間との調整が行われる。同委員会は昨年12月、エネルギー省が提案した2018年版の長期電源開発計画(PDP2018)を承認した。  政府は、天然ガスと電力の自由化競争と投資を促進するためのEV主導のターゲティングも進める。また第23回目の原油探査の企業選定も行う。これにはタイとカンボジアの重複主張海域(OCA)の交渉、東部経済回廊(EEC)地域での石油化学事業のフェーズ4も含まれる。  「基礎経済の推進」については、パーム農家の収入を安定させるためにバイオディーゼル燃料「B10(パーム油10%混合)」を取り扱う給油所を増やす方針だ。また、ガソリンにエタノールを20%混合したガソホール「E20」を標準的なガソリンとする計画もある。エタノールの原料となるサトウキビやキャッサバの農家支援が目的だ。2021年前半に製油所を基準に適合させ、内務省と共同で全国のコミュニティーに対し最大24億バーツのエネルギープロジェクトを推進する。  「クリーンエネルギーへの投資促進」については、エネルギー省は2021年に150メガワットの予備電力の開発を含む循環エネルギーへの投資を促進する方向性を設定し、拡張発電所を含めて270億バーツの投資額を示した。タイでは急速な経済発展により廃棄物量が増加していることや、環境意識の高まりにより埋立処理以外の廃棄物処理が望まれていることから、廃棄物発電所が各地に建設されている。また屋上太陽光発電の開発も急速に進んでいる。特にESCO(省エネ支援サービス)には350億バーツを投資し、新技術を導入しての発電の拡大および節電対策を進める。経済全体で30%のエネルギー節減を目標としている。  各国のエネルギー開発当局は、それぞれの国の持ち味を生かして新たなエネルギー産業を構築している。タイではクリーンなエネルギーが重視され、太陽光、風力、バイオ、廃棄物発電の発展が目覚ましい。再生可能エネルギーの発電コストは急速に低下しており、その他の電源と比べても、コスト競争力のある電源となっている。  環境負荷の低い再生可能エネルギーは今やクリーンな世界へ移行するための主要なファクターとして世界中で認知され、未来を切り開くエネルギー革命の主役となった。タイも今後、クリーンエネルギーの開発にさらに力を入れていくことだろう。

21年04月01日掲載

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