DICAジャパンデスクに聞く ミャンマー 日系企業最新動向

2014年3月からミャンマーのDICA(国家計画経済開発庁投資企業管理局)に2人のジャパンデスクが常勤している。DICAはミャンマーの計画・財務省傘下で、ミャンマー投資委員会(MIC)の事務局。DICAが日本企業のミャンマー投資を促進するため、ジャパンデスクの設置を在ミャンマー日本大使館に要望して実現したもので、JETRO(日本貿易振興機構)とJICA(国際協力機構)から一人ずつヤンゴンのDICAビル内に出向して、日本からの投資検討企業などの相談に応じている。JETROとJICAが同じ部屋で仕事をしているのはミャンマーだけという。日本企業の投資が急増中という現状ではないが、ジャパンデスクを訪問してくる日本企業は毎日1、2件はあるといい、2人のジャパンデスクがそろって応対することが多い。すでにミャンマーに投資している企業からの電話応対も多いという。

JETROから赴任している田原隆秀(たはら・たかひで)氏は日本の公認会計士。日本の大手監査法人を経て国際会計事務所であるKPMCのタイのバンコク事務所に所属していた時、「ミャンマーかベトナムに赴任しないか」と誘われてミャンマーなら行きたいと手を挙げた。「すでに証券市場も整備されていたベトナムに比べ、ミャンマーは何もかもこれからという感じがあり魅力的でした」と田原氏。そして2012年から14年までKPMCのミャンマー事務所に所属した後、JETROからの派遣という形でDICA赴任が決まった。2014年3月に首都ネーピードーのDICA本部でジャパンデスクとして勤務を開始、しかし外国投資企業の利便性を考えて2014年7月14日に本部をネーピードーから現在のヤンゴンに移したことに伴って田原氏もヤンゴンに移動した。一方、上田隆文(うえだ・たかふみ)氏は昨年、前任者を継いで日本のJICA本部から出向している。

取材・文 アジアジャーナリスト 松田健

順調に進む日系企業の投資

ミャンマーへの日系企業の投資は鈍ってはいるものの、2017年は実績認可額で好調だった2014年に並ぶ実績になったという。MICへの直接申請は2017年に減っているものの、シンガポールなどを経由した日系企業の投資、および日本が開発したティラワ工業団地への公表されていない投資も含めれば、2016年比で順調な伸びが続いており、2018年もその勢いは続くと2人のジャパンデスクは見ている。

ミャンマーでは2016年に新投資法が成立、2017年4月から施行され、2017年12月6日には外国投資の急増を期待する新会社法が設立し、2018年8月1日から運用が開始される。従来は外国人が1株でも保有していれば外資企業として各種規制の対象にされたが、新会社法では外資の出資が35%までならローカル企業の扱いとなり、土地保有や最終製品の輸出入も可能となる。DICA(国家計画経済開発庁投資企業管理局)の田原隆秀、上田隆文両ジャパンデスクもミャンマーの法制度が一歩ずつ前進していることは認めつつ、「卸売、小売では商業省の別の規制が無くならないだろうし、土地保有では不動産譲渡制限法が続きそうな現状で、我々も投資企業に対してはっきり答えられないことが多く困っている。各省庁間で調整を図り、細目についても早く決定してもらいたい。新しい会社法ができたと言っても現状では投資手続きも簡素化されたとは言い難い現状」と説明する。

昨年後半からラカイン州のイスラム教徒の「ロヒンギャ問題」についての問い合わせも増えている。田原氏は「日本政府も解決に向けた支援を続けることで一貫しており、欧米企業とは異なり日本企業のミャンマー投資には影響を与えない」と見ている。同氏はミャンマーの経済発展から中間層の購買力が増えており、今後は新投資法、新会社法の影響も出て「ミャンマーで作ってミャンマーで売ることを考えた工場進出も増える」と見通す。

ジャパンデスクに繰り返し相談に来る日本人も増えている。「小さい会社で投資前の事前調査が不十分だったことを理由に撤退されたケースも聞いています。時間をかけていろいろ調査されることは必要で、我々もできる限りの協力をしています」と田原氏。一方でDICAなどミャンマーの省庁に対しては「もっと周辺国との競争意識を高めてもらいたい。ミャンマー政府は今後の経済発展に向けた具体的な施策、ビジョンを明らかにして、数値目標も入った経済発展計画を示して欲しい」(同氏)と期待している。

ハンタワディ国際空港やダウェイ開発が止まっている。「ミャンマーの魅力を増すためにもインフラ整備を急いでもらいたい」と両ジャパンデスクは要望する。ミャンマーのインフラ整備が遅れているということは、インフラ整備の潜在市場が巨大ということでもある。ミャンマー日本商工会議所(2017年末の会員数369社)のメンバーでも最も多いのが、ゼネコンなどの会員から成る建設部会。

MICでは外資投資の認可をするメンバーの増強を図ることで、投資企業の投資申請の認可に向けたスピードを速める取り組みをしている。例えば2018年1月18日付の通達では計画・財務大臣が委員長で副委員長が商業大臣、法務長官など、13人のメンバーの内の3人の欠員を埋めたと発表している。ヤンゴン管区の高官が初めてメンバー入りしたことも評価されている。ヤンゴン管区の女性大臣であるニ・ラー・チョーさんで、同管区は日本企業の投資が多い地域であることから、両ジャパンデスクも「今後は認可へのスピードが速まる」と期待を寄せる。欠員を埋めた他の2人は連邦政府省大臣とミャンマーの著名エコノミストで現在は電力エネルギー省に属している。

魅力は勤勉で安価な労働力

日本企業がミャンマーに投資する魅力について2人のジャパンデスクは、勤勉で安い労働力がある点を強調する。ミャンマーでも賃金上昇が続いているが、タイ、ベトナム、カンボジアほどではない。だが、300万人を超えるやる気に満ちたミャンマー人労働者がタイに出稼ぎに来てしまっているという問題がある。最近、上田氏はタイを訪問して投資委員会(BOI)の幹部などとも意見交換し、勇気づけられたという。「タイでは『中所得国の罠』から抜け出し、将来の先進国入りを目指すために労働集約型企業はタイの外に出していく方針です。最近、タイ国境のミャンマー側の町であるミヤワディに工場を建てたミャンマー人経営者は、給与が高いタイがすぐ隣に見える場所だから必要なミャンマー人労働者を雇用できるか心配していたそうですが、実際には工場にミャンマー人が集まったという話も聞かされ、やはり母国に仕事をする場所があれば外国(タイ)に住まないミャンマー人が多いことを知って安心しました」と上田氏。

今後ミャンマーに増えそうな日本企業について、田原氏は「商社系を中心にシンガポールからの投資が増えそうです。不動産でも日系のホテル、複合施設での投資が目白押しです。日本の製造業の投資では原材料もほとんどミャンマーで手に入らないので輸入に頼るケースが多く、ミャンマーのどこでも投資できるという状態ではない。そこで今後も貿易の環境も整っているティラワ工業団地を中心に日本の製造業の投資は進む」と見る。上田氏は「日本のIT企業のミャンマー進出も増えるのでは。一般に設備投資額が小さいIT関係の投資はMICからは認可される必要はないが、すべてのIT企業がDICAに認可され登録する必要があります」という。

DICAは1993年に計画・財務省傘下で設立され、国内と外国投資の増大、民間の起業促進、域内・国際経済協力、制度構造の改善を目的として活動している。ミャンマーでもっともクリーンで汚職も皆無の役所とされ、342人(2017年末現在)の職員はDICAで働くプライドも高い。現在はアウン・ナイン・ウー局長(U Aung Naing Oo)の元に3人の副局長がいる。その下に投資1(農業。SEZ=輸出加工区)、投資2(製造業)、投資3(サービス)、投資4(エネルギー)、投資促進、政策・法律、計画・統計、投資監視、企業登録、管理会計、支店の担当に分けている。

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